て・そ・ら



 数日前。

 放課後の廊下でのあのアクシデントの翌日、あたしは隣でまた元気に眠りこける男子を、じ~っくりと観察したのだ。勿論授業中に、やたらとデカイ現国の教科書で顔を隠して。

 本当は教科書の影からだと思う存分観察が出来ないから、教科書に穴をあけてやりたかったほどだ。だけどそんなことしたらバレバレよね・・・うん、やっぱりやめた。

 余りにも興味関心がなかったクラスメイトが思いも寄らない初キスの相手になってしまったため、あたしは大変パニクっていたのだった。

 いや、あんなのキスだと認めないって人はたくさんいると思う。

 あたしもそう思いたい。

 だけど頭の中では絶えずあの場面がぐるぐると回っているのだ。

 衝撃、一瞬の痛さと柔らかさ(ううん、柔らかさは覚えてない、正直に言えば)。横内の驚いた顔。鼻血を押さえるために顔の半分を手で覆っていて、横内の切れ上がった一重がすごく印象深かった。

 ・・・また、横で寝てるけど。

 大体あたしは男子に免疫がないのだ。威張れないけど、威張ることが出来るくらいに男子との触れ合いなんてなかった。

 小・中・高校と全部共学だったにも係わらず、いつでも中の良い2,3人の女の子と一緒にいるか一人で隅っこでぼんやりしているかで、クラスメイトであっても男子とそんなに会話したこともない。

 ただそこにいる、そんな感じの女子を、自分でも演出してきた。

 憧れの歌手やモデルさんはいるけれど、自分がそうなりたいと思ってダイエットしてみたり化粧してみたりはしない。

 世間で言う「女子高生」って、一体どういう風な過程を経たらああなるんだろうって他人事としてみてきたのだ。