て・そ・ら



 心の中で優実に八つ当たりをして、あたしは急いでポケットからカイロを取り出す。それから、もう一つのポケットからは自販機で買ってきたばかりの「蜂蜜レモン」を。

「温かいよ、飲んで飲んで」

 ホカホカの缶を彼に押し付けた。

「おー、さんきゅ。ううー、あったけー!」

 両手で包み込むようにもって、彼がニコニコと笑う。良かった、あたしはホッとした。あえてよかった、もう今日は会えないと思っていたから。

 コンクリートが段になっている所に並んで腰掛けて、ホットの缶ジュースを二人で分け合った。

 特におかしいことがあるわけでもないのに、二人は色んなことで笑ったりした。

 太陽の光よりも風の威力が凄くて、そこはとても寒かった。だけど、今日も綺麗に晴れ上がった青空が続いている。

 この空を、あたしは手で筆を使って紙に書いていく。

 彼はラケットでボールを打ちながら、見上げていく。

 心の中で口ずさんだ。

 手と、空と、ラケット。横内が目を見張った、両手一杯の青。空と同じだっていった、あの時の言葉の温度。

 あたしはきっとずっと覚えているんだろう。

手と空とラケット。繋がる、その絆を。

 手と・・・

 あ、なんか合言葉みたいなものが出来そう。あたしは一人で考え込む。これをどうにかして、あたしだけの勇気が出るお守りみたいなものに出来ないかな。そう思ったのだ。困った時、悲しい時、不安な時に呟く、呪文みたいな言葉。