「隣に行きたいなって」
佐伯の、隣に。そう呟く彼の声が、吹き荒れる風にも負けずに確かにあたしの鼓膜を揺らした。
・・・・・・・・・待って。
待って待って、ちょっと待って。今この人、何て言った?ええ?いやいやいや、聞こえたよね、あたし?ちゃんと、ちゃんと。
茜色に染まりだした世界の中、あたしの喉は乾燥してからっから。このままだと風邪ひいちゃうよ。体は十分あたたかいけど、でも!
「あの・・・」
「――――――――」
どうしていいのか判らない。あたしは彼から目を離せないままで、ぐんぐん上昇していく体温を感じていた。
折角の雄大な光景も、自然の素晴らしさをもってしても、今はこの男の子から目を離せない。だってだって――――――――・・・
あたしはもう、全身でまっかっかだったはず。だけどそれは横内も同じだとわかった。だってマフラーから出ている彼の耳、あれは夕焼けのせいだけじゃない・・・。
コホン、と小さな咳が聞こえて、あたしの方を見ないままで横内が言った。
「そういうわけ、だから・・・俺、そのー・・・」
「うん」
「・・・」
「・・・」
「うわー、マジでこれって・・・恥かしいもんだな」
「えーっと・・・うん」
これ以上は無理だ、そんな声が聞こえて来そうだった。だけどそれはあたしも同じ。すでに容量マックスのいっぱいいっぱいで、気持ちが溢れかえりそうだった。



