私は鏡に一歩近づき、自分でそっとその重たい前髪を上げてみる。
「…………」
すると、女子の騒がしい声が近づいてきて、数人がトイレに入ってきた。
「ねぇ、このグロス可愛くない?」
「あー!それ雑誌に載ってたヤツ?もうゲットしたんだー!さすがマキ!」
よりによって、その集団は根本さん率いるうちのクラスの目立つ女子グループだった。
今日も相変わらず綺麗に巻かれた髪に、盛ったメイク。
誰のものかもわからない、複数の香水が混じった匂いがこの空間に広がっていく。
幸い、彼女たちは自分たちの話に夢中で、私なんかには目も留まっていない様子。
そう。それでいい。
このまま誰の目にも留まらないように。
そのために私は地味で有り続けなきゃならないんだ。
それが、平和な日常を守るための、賢い方法なんだから──。
だから、向日くんにちょっとでも可愛く思われたいなんて、そんなこと思っちゃダメなんだよ……。