天才に恋をした


拍手の音が木々を揺らして、人々が立ち上がり、ほどけてゆく。




あれから、長い月日が経った。

あっという間にも思えるけどな。



宮崎先生の二十三回忌に当たる今年、

旧ヤラダム王国……

現在のヤラダム立法統治国で、宮崎先生の業績を称えた式典があった。


宮崎先生の銅像と一緒に、村の惨劇を後世に伝えるレリーフも建設された。



その除幕式に、貴枝ちゃんの姿があった。



「ああ、やっぱりお母さんに似てるなぁ」


俺が言うと、化粧っけのない顔で笑った。



「姉さんは歳取らないつもりですか?ぜんぜん写真と変わってない」

「いやになるよな。お前の娘かって聞かれるんだ」

「あはははは」




貴枝ちゃんは大学へ入学するときに、養父母から自分が里子だということを明かされた。

だけど、本当はもっと前から薄々気がついていたらしい。

今は病理医として働いている。





「中津川春一さん、覚えてます?」

「もちろん。知り合い?」

「学会で会いますよ。毎回、ウザイくらい子供の写メ見せてくるんです」




式典には、母国で官僚になって異例の出世を続けているシュエも来ていた。

いつか、みんなで集まれたらな……



「本当の親父さんには会った?」


貴枝ちゃんがうなずく。



「でも会話が続かなくって。もう長いこと会ってないですねー」

「うちも子供が出来なくて、六人とも養子なんだ」

「いっぱいいるから、驚きましたよ」

「今、養子以外の子供も含めて十人かな」




苗はレリーフに手をやって、点字のように絵を読み取っている。

そして、まとわりつく子供たちに意味を伝えている。



いつも思う。

アイツのいる所は、時がゆっくり過ぎてゆく。



「昔から、あんな感じだったんでしょうね」

貴枝ちゃんが言った。


俺もその横顔を眺めた。

ひめゆりの塔で、息をひそめて見つめ続けたっけ。



「そうだね。変わってないよ」