天才に恋をした

苗の母親に療養施設で初めて会ったのも、この夏だった。

息をして、起きてもいるけど、その目は何も語らない。



苗は、しげしげと母親を観察した。


「あー」


苗が声を上げた。


「なに?」

「貴枝ちゃんと、ここが同じー」


苗が目尻のラインを宙になぞった。


「似てるか?」

「似てる~」


正直、もう貴枝ちゃんの顔は思い出せない。

でも苗が嬉しそうにしてる。


俺もお母さんの顔の中に、苗の面影を探した。

うーん。

似てる気もするけど、どこだかは分からないな。



「これでお母さんを忘れないよ」


苗が弾んだ声で言った。



「どこにいてもお母さんだよ」



もう一度、お母さんの顔を見た。



「あっ。分かった。苗と頬っぺたが一緒だ」

「どこ?」

「ここ」



苗がニコニコとお母さんの頬に触れた。


「本当だ」


これで俺も忘れない。