天才に恋をした

親父が突然立ち上がった。

頬に破裂するような痛みが走って、

後ろのソファーまで体が吹っ飛んだ。


「止めて!ちょっと!」

「お父さん!」


親父が俺の胸ぐらをつかんだ。

「ふざけんな!お前!人の信頼を裏切りやがって!ヒトのっ…!他人様の娘をっ!」


馬乗りになられて、また殴られた。


頭に血が登った。

「痛ぇな!止めろよジジイ!」


だけど防戦一方で、何もできない。


「お前!そんな奴かあっ!そんな奴だったのかっ!!」

「止めて!お父さん!」

「止めなさいよ!」



陽人の泣き声が聞こえる。

そして、苗の声も。


「止めてーっ!」


それは悲鳴に近かった。


「嫌ーっっ!!」


家が揺れるほどの絶叫だった。


ひるんだ親父と俺の間に、体ごとぶつかってきた。



「うわあああん!」

俺にしがみついて、苗が泣きわめいた。


「止めてよーっ!」


俺は苗の頭をなでた。

言葉をかけたいけど、顔が火傷したように熱い。


誰も何も言わないまま、時間だけが過ぎた。

苗の泣き声が、部屋に響く。


母ちゃんがようやく口を開いた。


「とにかく、起きてよ」