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お祭の季節になった。
橘が気を遣って仲が良い子と行くお祭りに誘ってくれていた。

私はお母さんに浴衣を着せてもらって、待ち合わせの鳥居の前に行った。

「おーい、西川こっち!」

人混みを押し退けて、私を呼ぶ橘のところに行く。同じクラスの友達もその彼氏の子も集まっていた。

「浴衣かわいー」

「西川かわいよ」

「千里その色似合う!」

「そ、そうかな…」

社交辞令だとは分かっていた。夏休み前まで私と話そうとさえしなかった子達なのだから。
それでも嬉しかった。お母さんが四苦八苦しながら着せてくれたことに感謝した。
少しずつ友達との関係を戻していきたいと思う。

「永瀬に見せてあげなよ」

「あいつ来るの?」

「もちろん呼んだに決まってる。もうすぐ来るよ」

橘の気遣いは嬉しいけど、顔合わせにくいな…

「おーい永瀬、こっち!」

永瀬が部活の仲間とこっちに歩いてくるのが見えた。

「永瀬…」

自然と声が震える。

「あ…」

永瀬は私を見るなり慌てて視線をそらした。そしてそのまま歩き出す。みんなで屋台の並ぶ人混みを歩き始めた。

今まであんなにはっきり態度に表されたことはなかった。いつもは挨拶ぐらいはしてくれていたのに。
何で永瀬のことでこんなに悩まなければいけないんだ。胸が痛い。

ねえ永瀬…私がああ言ったから…もう私の腕を引いてくれないの?一緒に歩いてくれないの?追いかけてもくれないの?





「ちょっと西川!」

私は走り出した。そばにいた橘が慌てて叫んだけど、私は止まらなかった。

人込みをかき分けて走るのは簡単じゃなかった。何度も人にぶつかった。せっかく着せてもらった浴衣もはだけてしまう。

気付いたら神社の裏まで走っていた。ここまで屋台は出ていないから人も来ない。

「バカみたいだ私…」

楽しいはずのお祭で一人何やってんだ…

本当に私はバカだ。何を期待しているんだ。

今日はこのまま帰ろう。橘に連絡しようとスマートフォンを出したときだった。

「千里!」