部屋の中から、深成も築地塀の上の真砂を見た。
 深成からは逆光になるので、単なる賊と思われても仕方ないのに、すぐに塀の上の人物が誰かわかったのだろう。

 深成は驚いた表情になり、すぐに回廊に飛び出してきた。
 真砂を見つめる深成の瞳が、如実に心を表している。

 何本もの槍が突き出される。
 それを真砂は、深成の懐剣で弾き飛ばしていった。
 そして最後の槍を捌いた後、懐剣を深成に向けて放った。

 もう必要ないのだ。
 深成との繋がりも、本人を手に入れてしまえば必要ない。
 真田と深成の繋がりも絶つ。

 そして。
 それを今、深成の前に示すことで、紛う方ない真砂が来たことの証明になる。

「来い」

 命じるように言うと、回廊に立っていた深成は、躊躇うことなく真砂に向かって走ってきた。
 行く手を阻もうとした六郎を蹴り、真っ直ぐに飛び込んでくる。
 真砂が差し伸べた右手を、深成はしっかりと掴んだ。

「真砂っ……!」

 泣きながら、深成が抱き付いてくる。
 三年ぶりに嗅ぐ、深成の匂い。

 若草のように瑞々しかった香りに、少し甘い香りが加わったようだ。
 少年のようだった身体も、柔らかく丸みを帯びている。

 女子とは、かように愛おしいものか。
 初めて胸に突き上げる想いのまま、真砂は腕の中の深成を、強く抱き締めた。