それからしばらく経ったある日、千代はようやく起き上がって、庭を歩いていた。
 僅かながら、日差しが暖かくなってきたようだ。

 積もった雪を踏みしめて、注意深く歩く千代は、目の端に、縁側にいた兄嫁が、慌てた様子で腰を上げるのを見た。

「ま、まぁ清五郎様」

 兄嫁が平伏する。
 千代がゆっくりと振り向くと、回廊を清五郎が歩いて来ていた。

「ああ、気にしないでくれ」

 縁側の隅に、ひたすら小さくなる兄嫁に気安く声をかけ、清五郎は縁側に立って、庭にいる千代に目をやった。
 千代が、軽く頭を下げる。
 そんな千代に、兄嫁が慌てたように身振り手振りで平伏するよう促しているが、千代は、それを冷やかに見た。

 千代は母と兄、それにこの兄嫁との家族で暮らしている。
 兄がこの嫁を娶ったのはかなり前だが、どうも千代は、この兄嫁を好きになれないでいる。

 千代から言わすと、やたらと卑屈なのだ。
 真砂と一番近しいとはいえ、頭領でもない清五郎に対しても、殿様のように扱う。
 真砂となど、口を利くどころか、顔も見れないだろう。

 きつい性格の小姑と、小姑そっくりな姑との暮らしで、生来の卑屈さに拍車がかかったのかもしれないが。