姫side
「このっ馬鹿野郎ッッ!!!!」





十数年生きてきたけれど、



人を平手打ちしたのは初めてかもしれない。



3人も目を丸くしている。



蛍は、痛そうにも不愉快そうにも



顔を歪めなかった。



激しく激昂する私。




そんな私に反応もしない蛍。




こいつは静かに背を向けて立ち去ろうとした。



私はその彼に向かって叫んだ。





「あんたは無意識かもしれないでしょうけどね!!



あんたの視線は



いつも希子さんのほうに向いてるんだよ!




早く気づけよ大馬鹿チキンやろー!!」





最後の方は悪口と化してしまったが、



効果はあったようだ。



彼はこちらを振り返った。



顔は赤くなり、視線が泳いでいる。





…本当に鈍感なのかよ。



蛍は寝癖が立ったままの髪の毛をかきむしった。




「自分達が良ければ



好きになることにいいも悪いもないんだよ。」




彼はしっかりと頷いた。




「きーさん、さっき出ていったから



まだ、間に合う。



早く行けぇっ!!」




蛍は何かがそれと同時に走り出した。


蛍が走り去った後、修也は呟いた。




「俺も、あんな風になれたらな。」



「なれるよ、修也なら出来る。」




大好きな人の可能性を信じて。



修也の想いが伝わる事を願って。