初めて彼女にかけた言葉がこんなものになるとは思わなかったし、ちょっと前まで自分も寝ていたから少し言いづらい台詞ではあった。
言ってすぐに塀を飛び越え、風を切りながら彼女の家の屋根の上に着地する。
カーテンがふわりと揺れる。
こちらを見ている彼女の髪もそれになびいていた。
「……誰」
開口一番「誰?」とくるとは想定外だった。
自分が少しも彼女の視界に入っていなかったということを痛感させられる一言だった。
「落ち着け」
でも、説明よりもまずは平常心を保ってもらうことが先だ。
「そういうのは後でちゃんと話すから、とりあえず今は俺の話を聞いてくれ」
聞いてくれと言ったところまではよかったものの、屋根の上と部屋の中という妙なこの距離感で話すのはどうだろう。
考えた少年は彼女の部屋に入って彼女に少し近づき、言った。
「俺はリック。……シイナ、お前にはやり残したことがある。そうだろ?」
少年は自らをリックと名乗り、確かめるように彼女に言った。
“あのとき”聞こえた声が彼女のものだとはっきりさせるためだ。



