僕の幸せな記憶

物音で僕が帰ってきたことに気付いたのか、百合香が玄関にやって来た。

玄関で靴も履いたまま、泣き崩れる僕を見て百合香は何かを察したらしい。

本当は百合香も泣きたいのだろう。
けれど、何も言わずに優しく僕を抱きしめてくれた。

百合香はきっと僕よりも辛い。
なのに、強がって意地をはって励ましてくれた。
「大丈夫。お兄ちゃんはきっと、絶対に死なないから。私もお父さんもお母さんも皆、傍に居るから。」と。

でも、今はそんな言葉さえなんの力もなかった。
どれくらいの時間そうしていたのかは、分からない。

だけど、百合香はずっと傍に居てくてた。
冷静になった頭で、今日医者に言われたことを全て話した。

百合香は少しの間、感情が抜け落ちたような顔をしていたが、やがて今までにないくらいの明るさで、笑った。

「私だっていつお兄ちゃんが、いなくなっちゃうんだろうって、毎日不安で怖い。だけど、ずっと傍に居てくれるって信じてるから。
お兄ちゃんはちゃんと最後まで生きられるって信じてるから。」

医者の機械的な声の慰めなんかよりも素直に心に染み渡った。