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グラスを持つ手が震える。
「…っ、」
緊張で息がつまる。
大丈夫、と。
声に出さずに言ってみる。
扉のベルが鳴る度に、肩を揺らし、恐る恐る振り返り、目当ての人物ではないのが分かって少し残念に思いながらまた前に向き直る。
これを、何度繰り返しただろうか。
そして今、やっと目当ての人が来た。
「え、み…?」
時間は一週間前に遡る。
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色々な事実を知り、お兄ちゃんの連絡先を受け取ってから二日たった日の夜。
わたしはやっと決意した。
「ふぅ…。」
よしっ!
『プルルルル…。』
大丈夫、練習はしたんだから。
『プルルルル…、プルル、はい。』
お、とと…。
ビックリして携帯落としそうになっちゃった。
「あ、あの、」
『…?どちら様ですか?』
「えっと、さ、わだ、笑美です。」
気付いてくれるのかな。
「あ、きらお兄ちゃん…?」
声、裏返っちゃってる。
スラスラと、言葉が出ない。
そんなどうでもいい事を考えないと、緊張で何も言えなくなりそう。


