「あれ? 碓氷君は、風邪ですか?」

河野が淹れてくれるコーヒーを待ちながらカタカタとキーボードを叩いていたら、こんな時に限って社長が現れた。
乾君じゃないけれど、思わず背筋が伸びるというもの。

「あっ。お疲れ様です。社長っ」

突然かけられた声に慌てて椅子から立ち上がってお辞儀をしたら、胸の辺りが気持ち悪くなってしまった。
完璧に二日酔いだ。

しかし、社長の前だ。
う~、なんてへばった声を上げるわけにもいかない。

「大丈夫です。はいっ」

気持ち悪さを表情に出さないよう、はっきりと返す。

「新店準備は、どうですか?」
「それも、順調に進んでいます」

「新しく、POPに新人を入れる予定だそうですね。梶原君は優秀でしたから、彼の後をちゃんと引き継げるような人をお願いしますよ」
「承知しました」

私の返事を聞き、少し満足した社長は、他の社員の様子を見たあとフロアを出て行った。

「あぁ~、ビックリした」

ここへなんて余り顔を出さないのに、たまーにこういう風にふら~っとやって来るんだよねぇ。
心臓に悪いわ。
社長に気を遣って、更に二日酔いが悪化した気がする。

溜息を零していると、河野が戻ってきて、カップに入れたコーヒーを机に置いた。

「なんか、さっきよりも体調が悪そうだな」

私の顔色と脱力している態度を見て、河野が不思議そうな顔つきをしている。
そんな河野に言ってやった。

「あんた、ついてるよ」

社長がいなくなってから戻った河野に嫌味っぽく言ってみても、なんだか解らないといった顔をしていた。