Eternal Dream~遥かなる愛と光~

「まさか、このタイミングで動くなんてね。僕の読みが甘かったってことかな? いや、きっとそうなんだろうね。でも、これ以上のことはさせないからね。友梨は渡さないよ。そのことは覚えておくんだね」


凄みを効かせた声が辺りを漂っていく。そして、その声に応えるかのように桜の木はハラハラとその花びらを散らしていくのだった。



◇◆◇◆◇



「どういうことなのだ?」

「どうもこうもない。神の声が降りてきたのだ。巫女(カンナギ)は神の声を代弁するものだからな」


天井の高い石造りの部屋の中に人々の声がこだまする。だが、その声はどこか焦りを含んだもの。そんな中、若い男の声がその場を制していく。


「いつまでも御託を並べるな。神の告げられた言葉はどうだったのだ。間もなく、『封じの鍵』が代替わりになるはずだ。そのことに対する託宣ではなかったのか?」


その言葉に、その場にいた誰もが思わず平伏している。そのことに軽く舌打ちをする男。すると、彼の逆鱗に触れることを恐れるかのように、おずおずと話を切り出す者があった。


「た、たしかにその通りでございます。しかし、巫女の言葉では神は次の『封じの鍵』はこの地にはいないとおっしゃられまして……」

「どういうことだ。エリアルがいるだろう。彼女が次の鍵だというのは有名な話ではないか。しばらく姿をくらましていたようだが、今は戻ってきている。それなのに、どうして鍵がこの地にいないというのだ」


吐き捨てるように告げられた言葉には不機嫌さがありありとみてとれる。そのことを感じたのだろう。その場にいた者は一様に顔を見合わせると、言葉を選ぶようにして応えていた。


「リオン様はそのように申されます。しかし、この言葉を告げられたのは我がディノスの神である御方。そのお方のお言葉に異を唱えられるというのは、リオン様といえども許されることではないはずです」


その声にリオンと呼ばれた男はやれやれという表情を浮かべることしかできない。そのままの表情で、彼は投げやりに言葉を続ける。


「わかった、わかった。お前たちの石頭ぶりを忘れていた俺が悪かった。だが、そうなると鍵がなくなるということにならないのか? それにエリアルは己の立場を理解して、封印の洞窟に出発する準備をしていたはずだ」

「はい。エリアル様は準備を整えられ、明日にも出立なさる予定でした。しかし、神のお言葉がありましたので、今はそれを見合わせておられます」


その返事にリオンは思わず眉をひそめている。その表情からは『どうして、予定通りにしない』という叱責の声が聞こえるかのよう。だが、相手はそれに負けたくなかったのだろう。必死になって気持ちを立て直すかのように言葉を続けていた。


「リオン様がおっしゃりたいことは分からないでもありません。しかし、エリアル様は稀有なるお方。神の声を降ろすことのできる巫女は多くとも、『界渡り』は滅多に生まれないのです」

「だが、そのエリアルが次の鍵なのだろう。たしかに彼女の力は惜しい。しかし、『封じの鍵』がそんじょそこらの者と同じであるはずがないだろう。とにかく、神がどう言おうと、鍵は必要なのだ。エリアルには早急に封印の洞窟に出発するようにと伝えておけ」


そう告げると、リオンはその場から立ち去ろうとしている。その時、部屋にある窓から差し込んでいた明るい光が急に消え失せる。同時に聞こえるのは地を這うような轟音。


「どうした! 何があったのだ!」