━━お父さん、お母さん、今までありがとう。━━
 たった一言綴られた淡い水色の便箋に一粒、また一粒と少女の頬から伝う雫がぱたぱたと音を立てて滲んだ水玉模様を作り上げていく。
 静かに肩を震わせて泣いているこの少女は、疲れ果ててしまったのだ。
 「助けて」そんな言葉は誰にも届かず消え去り、周りの音にかき消されて散っていった。
 いつ、どこでおかしくなってしまったのか。間違ってしまったのか。━━どんなに考えても少女にはもうわからない。
 そもそも全てが間違っていて、夢で。
 ひとりぼっちで虐げられる『今』こそが現実なのではないか、と思ってしまう位に少女は追い詰められてしまっていた。
 棘だらけの日々はすぐに少女の心をぼろぼろにし、『明日』という言葉は少女の心のささくれに容赦なく突き刺さっていった。
 もう、少女は限界だったのだ。
 もう、全て終わりにしてしまおうか。
 そんな考えが少女の頭のてっぺんから爪の先までじわりと染み込んで今に至り少女は屋上にいる。
「今日も晴れてるなぁ...。」
 明日もこんな天気なのかな、少女は悲しいくらいに澄み渡っている空を仰ぎ少しの時間息を止めた。
「晴れていてもわたしには関係ないけど。」
 呟きながら一歩、また一歩と少女は足を進める。
 あと一歩、という所で少女の足はきゅっと止まった。
 身体が震えて動かないのだ。
 自ら選んだ『死』という選択が怖くない訳じゃない。
 簡単じゃ無いことも、逃げるだけだということも、わかっている。
 じゃあどうすれって言うのさ、今に至るまでに少女は何度も何度も考えた。
 だがしかし答えは一向に見つからず、ただひしひしとわかったことはこのまま生き続けるということの辛さだけだった。
 ━━もう、生きたくないんだ。
 明日なんかいらないよ。━━
 昨日まで、今までずっと泣き続けていた少女は涙をぬぐい、きゅっと唇を噛み締めて最後の一歩を歩んだ。
「ばいばい。」
 少女の身体は急速に風を切り、遠退いていく意識の中で最後に少女━━三戸木依世は言葉を吐いた。
「ひどい人生だったなぁ。」
 依世の意識は闇に吸い込まれた。