「いみわかんねぇし。お前から近寄ってきたくせに、いまさら避けたりすんじゃねーよ」









言葉とは裏腹に、あたしを包み込む手があまりにも優しくて。









「…俺、お前のこと好きだわ」









「…っ」









シオンが…あたしを?








「お前が悪いよ…俺をその気にさせたんだから」








シオンが…あたしを好き?







あたしは…っ。







ゆっくり顔を上げてシオンを見つめる。







目の前にいる彼が、だんだんあの人と重なって







…やっぱり、あたしダメだ。



あいつ以外なんて無理だよ。







「…なんで目見ないの」









「……」








「俺、あの時嬉しかった。ケーキも、プレゼントも。お前といる時間が俺にとって幸せで…っ」









ごめんね、シオン。






最後まで聞かずに手を振りほどいて走った。








「香奈…ーっ!」









…わかってた。





あたしがあげた時計をつけてたこと。


シオンの手の優しさがあたしを愛してくれてる気持ちを表してることも。





思わせぶりかもしれない。



…でもあたし、あの人を忘れられないの。







それにきっと、今付き合っても彼を傷つけるだけなんじゃないかって。







シオンから逃げてしまう自分がいて、もうそれはどうしようもなくて。










こんな中途半端な気持ちのままで






シオンと付き合えない。






あんなに純粋な彼の気持ちをこんな曖昧な気持ちのままで返したくない。











…それでも



はっきり無理って断らないのは






シオンの気持ちに甘えてるんだ。