冷たい風に吹かれながらバスに乗り、無事に映画館に着いた。
「成瀬は〜なんでいっつも行きたい場所があるの?」
「ん?どゆこと?」
映画館の席に座りながら、まだ始まってない真っ黒のスクリーンを眺める。
「いやなんかさ、あたしとデートする時って成瀬いつも行く場所とか決めてくれるからさ。あたしの知らないところたくさん知ってるね」
「あー。俺さ、自分が行ってみたいって思ったところは彼女とも一緒に行きたいんだよ」
「成瀬が行きたいところを?」
「そ!共感したいじゃん?俺が行きたいとか、したいって思ったことをお前と一緒にしたいんだよね」
「ふーん?」
なんだかよくわからないや。
再びスクリーンを眺めた。
するとしだいに辺りが暗くなり、上映のアナウンスが流れ始める。
「…最後の思い出になるね」
…え?
すると爆音が流れ始めてスクリーンに映像が流れだす。
暗闇の中で見る彼の横顔はいつもより大人びてみえて。
鼓動が早くなって、激しく揺れる。
…聞き間違い、だよね?
最後だなんて。
きっとそうだ。
握られた手はこんなにも暖かくて、緩まることはなければ離れることもない。
彼があたしの隣にいることを実感できる。
二人の薬指にはオソロイの指輪。
彼が初めてくれたプレゼント。
そして、愛の証。
『最後』なんて、そんなのあるわけないんだ。
聞き間違いだよ。うん、間違いない。
繋ぐ手の力を強くすると成瀬は微笑んであたしと同じように握り返してくれた。
ほら、こんなにも強く繋がれてるんだもん。
それでも、その言葉が気になって
映画に集中できなかった。

