どのくらいの距離を走ったのか、電車は街を離れ、田畑の中を走り始めた。
田園風景の先にぼんやりと、微かに揺れる海が、見えてきた…。

人は悲しい事があると、海が見たくなるって言うけど、ホントだった。

間近に海が見えるようになると、大急ぎで電車を下りた。
田園の中に佇む、小さな無人駅。
そこで初めて、海鳴りを聞いた。

風の中に漂う潮の香りに誘われながら、ひたすら歩く。

田畑の真ん中にある一本道を、海に向かって進み、風も、潮の香りも強くなった時、目の前に、

大海原が広がった……。

防波堤に積み上げられたテトラポットの上を、風に吹かれながら歩く。
時折、大きく開いたその隙間に、落ちて死ねばいいのに…と思うこともあった。



私が死んだら…

厚は後悔してくれるかもしれない…。

私を裏切ったことを、

泣いて謝ってくれるかもしれない…。


そんなバカなことを考えながら、辿り着いた海岸線で、突き出た岩の突端に座り込んだ。

他の人が見たら、絶対に自殺未遂にしか見えない場所。
そこで、絶壁に当たってはね返る波の飛沫を、容赦なく浴びた。

二月の風は、荒々しい程に吹き荒れて、体の芯まで凍えさせる。
目に染みる海水は痛くて、泣き過ぎた目を嫌になるくらい刺激する。
けれど、
今の私には、どちらも都合いい……。

海水は、泣き過ぎで乾いた目を潤してくれるし、
冷たい風は、頭の芯まで冷やしてくれる。