「うん…、ごめんね。私は窪野さんを…」

「いいんだよ。お前が幸せなら。俺ならまた好きな人くらい、探せるし。

だけどそれまでさー…」


藍の唇が、そっと私の唇に触れた。


「やべ、我慢できなかった。

まぁいいか。一緒に寝た仲だし」

「…おい、藍。お前後で覚えておけよ」

「おう」


窪野さんは、少し不機嫌そうだった。

藍が部屋に戻っていく。

私がその部屋に入ることは、もう永遠にないだろう。


(…あの輝かしかった日々。

ただ他愛のない話をして、お弁当を作って)


一緒にいたからこそ、藍の存在が大きいことが分かる。

何かを手に入れると、何かを手放さなければならないんだ。


藍の背中をゆっくりと見送った。