私はお兄ちゃんのトコへ逃げた。

一息をついて、目を閉じていると。

「…あゆみ。お前にお客だよ」

お兄ちゃんは深刻な顔をしていた。
ただ、焦りもない表情。


「…あゆちゃん。聞いて欲しいんだ」


それは窪野さんだった。

初めてこんなにも取り乱した姿を見た。
驚いているのもつかの間。


私に対して、何度も愛していると言ってくれた。

偽りのない言葉と思いは、ちゃんと私の心に届いていた。


そっと窪野さんの手のひらを握った。

「…じゃあ全て教えてください。

私のまだ知らない世界を」

「あぁ、勿論。喜んで教えるよ」

屈託のない笑みは、ようやく手に入れた幸せに見えた。

「お兄ちゃん、私窪野さんのトコに行くね」

「あぁ。お前がそうしたいならそうしろ。それと…」