俺は、放心状態で、座りこんでいた。

俺の入った棺を抱きしめ、泣くナツを見つめながら。

俺は、棺に近付いた。そして、棺の中を覗きこんだ。やっぱり、棺に入っているのは、俺に間違いない。顔も白くなってはいるが、茶色の長髪、口元のほくろは、俺のチャームポイントだった。


俺は、全く信じられない思いだった。俺は、間違いなく死んでいる。だとしたら、今の俺は何なんだよ・・・!!透けている自分の手を見ているうちに、自分の中に信じたくない思いが沸き上がってきた。


俺は・・・幽霊なのか??
いや、違うはずだ!!・・・でも・・・。
俺は、棺の中に横たわる自分の顔に見た時のない傷ができているのに気付いた。

何だろう、この傷・・・。俺は、棺の中の自分の顔にできている傷に、おそるおそる触れた。

その瞬間に、雷に打たれたような強い衝撃が体中をはしった。
記憶が・・・記憶がよみがえる。
俺は、交差点に立っていた。そして、もう一人の自分を見つめていた。
「待て!!待てよ、ナツ!」

「離して!!・・・もう放っといて!」
俺は、泣いて怒るナツを必死に追いかけていた。

「わがまま言うなよ!!」
「わがまま!?やっぱりタクは、あたしのこと何にもわかってない!!」
俺は、泣いて怒るナツを必死に追いかけていた。


こっちに向かって来る、トラックに気付かずに・・・。気付いた時には、俺は眩しいトラックのライトの光の中にいた。

最後に聞いたのは「タク―!!」そう叫んだナツの声だった。

俺は、現実の世界に引き戻された。いや、俺には現実も、夢もない。
だって、俺は・・・死んでいるんだから。