なんでだろう。
急いでるわけじゃないのにこいつはいつも早歩きだ。そして俺を試すように煽るように、いつだって先を歩きたがる。
ピンッと背筋が伸びる後ろ姿。肩まで伸びる毛先の細い髪の毛を揺らしながら、何度も後ろを振り返って俺が付いてきてるか確認する。
だったら隣を歩けばいいんじゃねーのって思うけど、これも変わらない俺たちの形のひとつだ。
「どっか行きたいところ、あんの?」
不器用に籠(こも)った声で尋ねた。
べつに母ちゃんに言われたからじゃない。ただ天気はいいし時間はまだ正午過ぎだし。
俺は行きたい場所なんてないから、選択肢として聞いてやっただけ。
「んーじゃ、ハワイ」
「バカ言ってんじゃねーよ」
俺はため息をついて、店のガラス窓に映る自分を見つめながら歩き進めた。
地面のコンクリートは茶色と白のタイル模様で、莉緒はわざとなのか無意識なのか白いタイルの上しか歩かない。
……そういえばこいつって、こういうところがあるんだよな。
歩道でも白線の上を歩きたがるし、少し段差があればすぐに登りたがる。
きっと、無意識なのだろう。
それで、それを見つけてしまう俺も無意識だ。
「今日じゃなくても、あとで連れてってよ」
「……え?」
気づくと莉緒の足は止まっていて、それはやっぱり白いタイルの上。
「私の行きたいところ」
くしゃりと笑って、肩が並ぶ寸前でまたこいつは俺の3歩先を歩いた。



