保健室に着くと養護教諭はいなかった。

俺は莉緒をベッドに寝かせて、とりあえず冷たいタオルを額に乗せた。


そういえばこいつの寝顔なんて改めて見たのは何年振りだろう。

倒れたり保健室に運ばれるのは大抵俺で、小学校低学年までは莉緒におんぶされながら運ばれたことだってある。

持ち上げたこいつの体は軽かった。

俺に力が付いたからだとしても、それは想像するよりずっとずっと軽かった。


「ん……」

暫くして莉緒が目を覚ました。

保健室の天井をぼんやり見つめて、ベッドの横にあるパイプ椅子に座っていた俺と目が合った。

俺が「大丈夫か?」と声をかける前に莉緒はニヤリと笑う。


「私のおかげでまた成長できたな」

強がりなのか心配されたくないのか、莉緒は本当に弱い言葉を使わない。


「はあ……。まさかわざと倒れたんじゃねーだろうな」

「そんなことできたら私は女優でも目指すよ」


莉緒が目を覚ます間に杉野からメールがきていて【池内のことでけっこう女子たちが騒いでる】と報告された。

なにを騒いでるのかは分からないけど、お姫さまだっこはやりすぎだったんじゃないかと今さら思ったりしてる。

キャラじゃないを置いておいても、大胆すぎて顔から火がでるほど恥ずかしい……。