「まあ、池内の近くにはそこら辺のアイドルより断然可愛い幼なじみがいるからなー」

杉野はなにかと莉緒のことで俺をからかってくる。


「いや、あいつよりアイドルのほうが可愛いよ」

口は悪くないし、メンタルをナイフでえぐってこないし。なにより空気がふんわりとしてそうだからやっぱりアイドルがいい。


「池内は贅沢だな。机の中見てみろよ」

……机の中?

確認すると中には3日前と変わらずに教科書と各教科のノートが入ってるだけ。


「ノートの中身」

そう言われてパラパラとめくってみると、俺の汚い文字を通りすぎたあとに綺麗な字体が見えてきた。

硬筆のお手本のような見やすい字。そしてカラーペンで重要な箇所は色づけされていて、図形やグラフはちゃんと定規で書かれている。


「そのノートだけじゃないぜ。3日間でやった授業の全部を立花さんが写してた」

「え……だってあいつクラス違う……」

「学級委員の鮎原にノート借りに来てたよ」

杉野の言うとおり数学や古典。理科に英語と全部の教科のノートに莉緒の字があった。

……そんなこと全然言ってなかったくせに。


「優しい幼なじみがいて羨ましいなあ」

「優しくねーよ、べつに」


昔からそうだ。

恩を100倍にして返せとか恩着せがましいことを言う時もあれば、こうしてなにも言わずに黙ってることもある。

牡蠣で食中毒になったなんてわざと嘘を言いふらして、俺が久しぶりに学校に行っても浮かないようにしてくれたこともそうだ。


16年間一緒にいるのに、莉緒のことはいまだによく掴めない。

そして俺はやっぱりあいつの後ろを付いていくだけの存在だ。