『元気だけど、なんで?』
親父が莉緒の話をするなんて珍しい。
『いや、立花さん家にお歳暮送ろうと思って、
この前電話したんだけど色々と忙しいから今年はいいって断られてな』
『ふーん、で?なんで莉緒が出てくんの?』
ちょうど緑が生い茂る公園の前を通りかかって、やたらとセミの声がうるさい。しかもガラの悪そうな不良が集まってるし、ここはさっさと早歩きをしよう。
『その時、後ろの話し声が聞こえて『薬なら明日病院で貰ってくるから大丈夫』って莉緒ちゃんの声が……』
『は?病院?』
早く通りすぎたいのに俺の足はピタリと止まった。
『だから風邪でも引いたのかなって思ってな』
親父の声がぼんやりと聞こえる。
……あいつは風邪なんて引いてない。
しかも俺が体調を崩すとすぐに病院に行けと言うくせに、あいつは意地でも行かないヤツだから。
具合が悪くなった事実を自分の力でねじ伏せて、余裕な顔をして平然を装う。
そんなあいつが病院で薬……?
そんなの知らない、聞いてない。