眠れる森の彼女

何で俺こんなに無性にイライラしてきてんだ。


「……椎名……先輩……」

「あ?」


俺の癖で低く聞き返してしまうと、また吏那は怯えたように肩で反応する。


「何で俺の名前知ってんだよ」


意識して声を和らげて俺が聞くと、吏那は緊張しているように強張った表情で少しだけ上を向いた。


「椎名先輩は有名だから……」


僅かに鼻にかかった高音域の声は揺れていた。


「有名ね……」


どうでもいい。


名前も知らない人間に褒められてようがけなされてようが、何を言われてたって。


それより。


「そんなに怖がんなよ。とって食ったりしねぇし」