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病院に到着した私たちは、すぐに秋さんの居る部屋へと向かった。

でもそれは、処置室でも病室でもないところで……エレベーターで地下へ降りたところにある、こぢんまりとした場所だ。


お線香が焚かれたその部屋の名前は、【霊安室】。

そこには秋さんのお父さんとお母さんが居て、お母さんはベッドにすがりながら泣きじゃくり、お父さんはそんなお母さんの肩を優しく抱いている。


……二人のそばにあるベッドの上で、秋さんは眠っていた。




「あぁ八峠くん……杏ちゃん……」




秋さんのお父さんが私たちに気付き、悲痛の面持ちで小さく頭を下げる。

そんなお父さんに八峠さんは何かを言い、お母さんにも声をかけた。


……まるで小さい子供のようにわんわん泣くお母さんと、目に涙を溜めるお父さん。

お線香に火を灯した八峠さんは、ベッドで眠る秋さんを見つめたあと、静かに手を合わせた。





ベッドで眠る秋さん。

泣いているお父さんとお母さん。

お線香の匂い。


【霊安室】という名の部屋……。




ドラマのような、マンガのような。

現実とは違う世界の物だと思っていたことが、今 目の前で起きている。









秋さんは亡くなった。


大量の煙を吸い込んだことによる、一酸化炭素中毒死だ。


室内で倒れている秋さんを救出した時にはもう、呼吸は止まっていたらしい。

発見された場所は火もとから少し離れた場所だったため、火傷はほとんどしていなかった。




ベッドの上に居る秋さんは、眠っているだけのように見えた。

肩を揺すったらうっすらと目を開けて、眠たそうな顔で『おはよ』って言いそうだし、『杏ちゃん』って優しく笑ってくれそうなのに。


……なのに、秋さんはもう、目を覚ますことはない……。