大きな花火が上がるまで、まだ10分はある。

それなのに妃鞠は、ソイツをうっとりと眺めて、目を閉じていった。




俺は嫌な予感がして、身体が動いてしまった。




「おい…、妃鞠。何でだよ……」

「えっ…?」



驚いた顔でこちらを見たとき、今までのことを思い出すと、つい抱きしめていた。


こんなにも細い身体をしていたんだ…。

何度も抱きしめたはずなのに、こんなことすら気づいていなかった。



俺は本当に大切なオンナすら、何にも気づいてあげれなくて。

離れちゃうに決まってんだろ…。




「……渡さねぇよ」


気づいたら、俺はアイツに向かって睨みながら呟いていた。

苦し紛れの声は、少しだけ震えていて、情けなく思えた。




俺は、妃鞠だけは―…誰にも渡したくなかったんだ…。