「妃鞠ちゃん?」
赤信号で蒼斗クンが止まると、少しだけ振り返った。
「何でメールしてくれないの?」
「え?」
「俺、ずっと待ってるのに」
制服のスカートポケットに触れると、カサッと紙の音がした。
「あ…」
「忘れてたんだ?」
「ご、ごめ…」
「いいよ。待ってるから」
口元を緩めて、蒼斗クンは微笑んでいた。
「ありがとう」
「いえいえ」
またバイクが走り出したとき、目の前でブレーキの音がした。
「あ、蒼斗っ…」
「っ―――…」
彼の名前を呼ぶ前に、大きな衝撃が身体を襲う。
最後まで消えなかったのは、蒼斗クンのぬくもりだけだった―…。

