「そんな、わけない…だって…そう、、坂月さんも知ってる筈…」




≪坂月さん?≫



誰も見ていないのはわかっているのに、沙耶はぶんぶんと首を縦に振った。



≪何?沙耶、坂月さんに会ったの!?≫



あゆみの声のボリュームが急に大きくなって、沙耶は思わず携帯を耳から放す。




「そんなに驚く?だってあの人ただのボーイでしょ…?」




≪はぁ?ばっかじゃないの!?坂月さんは石垣社長の右腕じゃない!≫




「は?」



呆れたようなあゆみに、沙耶の目が点になった。

同時に、ロールスロイスが脳裏に浮かぶ。



≪石垣グループのナンバー2だよ!視察を兼ねて、たまにホテルにふらっと来るのよね。いいなぁ、会えるなんて。すごい格好良いよね、優しそうだし!!!≫



沙耶の思考回路はとっくに途絶えているというのに、あゆみは興奮気味にまくしたてた。




≪もしかして、話したの!?私も話したかった!っていうか、石垣の御曹司はどうだった?!新社長になって一皮むけた感じ!?あの人もまた格好良すぎるよねぇ。私雑誌でしか見たことないんだけどやっぱり優しいのかなぁ。洗練されてる感じ…≫



石垣の御曹司というワードに沙耶はぴくりと反応する。




「…優しい???」


先程までの光景がまざまざと思い出され、沙耶のむかつきは再上陸する。