母の容態が安定したのは、秘書を辞めてから三日目の事。





―次の職を探さねば…





病院からの帰り道。


沙耶はスクランブル交差点を、求人誌を見ながら渡っていた。



片手にマジック、口にはキャップを咥えて、安い時給とにらめっこ。



そこへ信号待ちの車が、ファン、と軽いクラクションを鳴らしたので、ただでさえ虫の居所が悪かった沙耶は、その持ち主をギッと睨みつけた。




と。




「―あ。」




驚きで思わず開いた口から、マジックのキャップがぽろりと落ちる。




「ちょっと時間ある?」




苦笑しつつ窓から顔を出していたのは、石垣の幼馴染みの、嘉納孝一だった。





「っ、ないですっ!!」




絶対に石垣から何か聞いているだろう嘉納に、思いっきり警戒心を露わにして通りすぎようとすると。



ガチャ。



「誤解を解いておきたいだけなんだ。さ、乗った乗った。」



なんと嘉納が運転席から降りてきて、拒否する沙耶を無理矢理後部座席に追いやった。




「え!?ちょ、、うわぁっ」




公衆の面前で、拉致。



直ぐに信号が変わって、車は動き始める。



―何なのー!?




あんまりな扱いに、沙耶は呆然とするしかなかった。