゙コンコン゛

窓ガラスを叩く音に気づいて本から目線を上げると、冬馬は音がした方を見た。

『よぉ、久しぶり』

窓ガラス越しに、口がそう動いたのが分かった。

「…椿君、久しぶり」

美術室の窓を開けると、窓の外に椿が立っていた。

美術室は中庭に抜ける通路の途中にあり、生徒が通り過ぎざまに中をのぞいて行く、なじみの風景だ。

「さぶっ…中入っていいか?」

「もちろん…」

空はどんよりと曇り、二月の冷たい風が吹いている…

椿は校舎を回って美術室に入ると、中は暖かく油絵の具のニオイがした。

「今日は部活の日じゃないだろ?」

「ええ…引退した人間が、あまり顔を見せるのもなんでしょう?静かで良いんですよ、本を読むには…」

「確かに…」

椿はイスを持って来て冬馬の隣に座ると、美術室を見渡した。

「特にこの時期は差し迫った締め切りもないので、めったに人は来ないんですよ…」

「へぇ…」