『あの、理瀬先生。』

「はい?」


車のドアを開けようとしたとき、さっき声をかけてきたスタッフから再度声がかかる。


受付を担当している椎野 結花(シイノ ユイカ)さんという女性スタッフで、確認したことはないけれどおそらく20代半ばくらいだと思う。

いつも綺麗にメイクをして、髪はどうなっているのか想像もつかないほど複雑な結び方をしている。

男子大学生を中心に生徒が無駄に受付で話し込んでいくのはおそらくこの子目当てなのだろう。



『理瀬先生って、家近いんですか?』

「いや、近いって程では。」

『じゃあ今からご飯とかって難しいですか?』

「難しい…ね。」


ご飯。今から。ご飯。

何とも珍しい言葉を聞いたみたいに反応が鈍くなる。



『そうですか。じゃあまたお休みの日にでもご飯行きましょうね。』

「はぁ…。いや、俺はそういうのは。」

『理瀬先生の歓迎会ですよ、2人で。』


はぁ、と再びまぬけな返事をする俺を置いて、椎野さんは先に帰って行った。