拓実くんからは、あの後すぐにメールが来た。

夏休みが終わる約1か月後。
8月の頭に、練習試合があるらしい。

『俺が通う学校だから、理名ちゃんの家からは遠いかも。
分かりやすい地図を探して、送っておくね。

理名ちゃんと同じ学園の知り合いとかも来るかもしれないから、制服でおいでよ』

そう、文面には書いてあった。

そのことを、すぐに華恋や深月、椎菜にメールをして、アドバイスを仰いだ。

図らずも、彼女たちを家に呼んで、アドバイスを乞うことになった。

彼女たちを呼ぶために、必死に家を片づけたのも、今となっては良い思い出だ。

彼女たちは自前のメイク道具やヘアアイロン、ファッション雑誌を大量に持ってきて、
目から鱗のアドバイスをたくさんくれた。

前日から当日にかけては、深月と椎菜が私の家に泊まってまで、準備を手伝ってくれた。

帰ってきた父親にビックリされながらも歓迎されたのもいい思い出だ。

酔った飲んだくれ親父が、椎菜や深月に何か吹き込んでいないかだけは、気がかりだったが。

「夏休みだしさ、優等生、やめてみれば?
せっかくの休みだし、羽目外していいと思うんだ!」

「そうそう!
身長高いし、脚長いから、スカート短くすれば似合うと思う!」

「イメチェンして、馴化を防いで、惚れさせちゃお!

あ、馴化っていうのは、同じような刺激に対して鈍感になるので、珍しさや目新しさがなくなり、飽きてしまう現象のことね。

つまり、同じような服装ばかりしていると飽きられちゃうのよ。
それを防ぐためのイメチェンなんだからね!」

深月の、彼女らしい心理学のミニ講義つきだ。

されるがままに、ヘアアイロンで髪をカールさせられて、メイクを施される。

髪なんて、ストレートしかないと思っていた。

アイラインもマスカラも、ブラウンだ。
いつも黒だから、新鮮だ。

「ほら、頑張って、行ってこい!」

「進展、あるといいね!」

2人に送り出されて、家を出る。
良い親友を持ったなぁ。

最寄りの駅で降りて、地図とにらめっこしながら学校に向かう。
見覚えのある制服の人がいる。

私立グラジオ学園高等部の人たちだ。

あの人たちについていけば、きっとたどり着ける!
制服の人について行って、学園に着いた。
校門のところに噴水があった。
オシャレだなぁ。

人の群れについて行くと、体育館が見えた。

『私立グラジオ学園高等部卓球部
練習試合会場』
と書かれている。

ここだー!

ポンと肩を叩かれる。
その刹那、頭をくしゃくしゃと撫でられた。
痛い強さじゃない。

見上げると、拓実くんがいた。

「よく来られました」

笑顔で微笑んでくれた。
同じ制服を着た生徒について行ったなんて、恥ずかしくて言えなかった。

「気合いだよ、気合い!
試合、頑張ってね!」

「ありがと。
理名ちゃんに応援されたら、頑張れそう。
まぁ、見ててよ。
練習試合だけど、ガチでいくからさ」