私が人と距離を置いている。
そのことは、何となく、雰囲気で分かったはずだ。
何しろ、私が入学式でボーっとしていたことに気付いていた人たちだ。
想像してみる。
入学式の最中も、チラチラ私の方を気にしている男女2人組。

「ぼーっとしてるけど、どうしたんだろう。
体調でも悪いのかな?
あとで話しかけてみよう」

「やめておけ。
ウザがられるだけだって。
一人でいたい、自分のパーソナルスペースに人っ子一人入れたくないってタイプだぜ。

そういうタイプはいじめられやすいから、人への心の開き方も分からないだろうし。
悪いことは言わない、警戒されるだけだ」

あくまで想像、いや妄想だが、そんな会話が私の知らないところでなされていたのだろうか。
割と簡単に想像出来てしまった自分に、ほとほと呆れる。

いきなりパーソナルスペースなんておかまいなしに、屈託のない笑顔で話しかけてきた茶髪ロングの女の子。
その笑顔に危うくペースを乱されるところだった。
同じ高校生とは思えない、スタイルの良さにも腹が立つ。
なんの自慢だ。
学校中から持て囃されそうだ。

同時に、どこか上から目線で人を見下したような口調の男子の顔も脳裏に蘇った。
イケメンなので、下手をすると学校中とは言わず、他校の生徒からも持て囃されそう。
しまいには、ファンクラブなんかも作られそうだ。
一番思い出したくない顔のはずなのに、なぜ思い出すのだろう。
気味が悪い。
何より許せないのは幼なじみ女子には態度を変えていたことだ。
人によって態度を変える人は信用ならない。
そして、なるべく関わりたくないタイプ。
そこまで考えて、何度か首を横に振る。

いけないいけない。
先入観で人を判断してはいけない。
母からそう教わった。


そうは言ってもあの後も話しかけられることのないように、目線を合わせないようにして、スタスタと早足で教室から出てしまった。
だから、ゆっくりその男子と話したことはないままだ。
あの数秒で人間性を掴めるはずがなかった。
明日、勇気を出して話しかけてみよう。
そう心に決めて、ゆっくりベッドから降りた。

自分一人の食卓は質素なものだ。
キッチンで調理した野菜炒めとパックに入ったご飯、コーンスープを胃に流し込んだ。

明日はどんな一日になるのだろう。
そんなことを想像しながら湯船に浸かり、一日の疲れを癒した。
洗髪した後の髪を乾かすのも、10分あれば終わる。
ショートヘアは楽だ。


自分が夕食時に使用した食器を洗って食器乾燥機に放り込んでから、冷蔵庫内のミネラルウォーターを飲み干した。

時刻は23時。
ちょうどいい頃合いだ。
自室に戻ってベッドに潜り込み、深い眠りについた。