私たちは美冬ちゃんや華恋ちゃんがいる部屋に向かった。

もちろん、ちゃんと着替えも持参している。

ドアをノックすると、美冬ちゃんと言い出しっぺの陽花ちゃんが出迎えてくれた。

隙間から見えたのは野川ちゃんだ。
彼女は既に眠いのか、何度も欠伸を噛み殺している。

「眠そうだねぇ」

「この時間になるといつも眠くなるのよ」

野川ちゃんは動物みたいだなぁ。

「で?
誰からいくのー?」

当初の目的を忘れていなかった深月ちゃんが言う。

「私、なんだけどさ」

口を開いたのは、美冬ちゃんだった。

普通にモテそうなのになぁ。

制服にアイロンだってかけてるみたいだし、そこまで細かく気を遣える女の子って、そうそういないと思うのに。

「私、どうしたらいいかもう、わかんなくなっちゃった……」

目を潤ませて泣きそうな顔をする彼女。
美冬ちゃんのこんな顔を見たのはこの行事内で初めてだ。

「どうしたの?
落ち着いて、ゆっくりでいいから話して?」

「高校受験の塾で一緒だった男の子に告白されて、付き合うことになったんだ。

ようやく、今月で3ヵ月目なんだけど。

最近、その彼氏が私と2人でいる時も携帯ばっかり見てるんだ。
私に興味無いのかな、他の女の子とメールしてるのかな、とか思っちゃうの。

それだけなら、いいんだけれど。
問題があってね。

さっきのフットサルの試合見てたら、保育園が一緒だった幼馴染がいたの。
しかも麗眞くんと同じグループに」

「それで?」

「……昔の私は陽花ちゃんくらい活発で、理名ちゃんくらい男勝りな性格だったんだよね。

今の私からは全然想像できないかもしれないけど。

まあベタっちゃベタなんだけど、その当時の保育園の先生を好きになったの。

……今から考えると、ただの憧れだったってわかるけどね。
当時は幼心に”これが恋なんだ”くらいに思ってたんだ。

そんな私を見かねて、その幼馴染がこう言ってきたわ。
『将来本当に好きな人できなかったら仕方ないから俺が貰ってやるよ』
って。

保育園の砂場で遊んでるときにちょっとカッコつけてね。

そこから、気になる存在になった。
アイツはそんなこと言ったの覚えてないだろうし。
あの約束も、もう時効かなって。
だけどそんなの、面と向かって聞けるわけないよ。
どう聞いたらいいのかも分からないし」

初っ端から、なんだか複雑ね……


「報告しようと思ったら、聞いちゃったよ。
何?
俺のグループにいる誰?
もしかして、小野寺 賢人《おのでら けんと》のことかな?
アイツも、美冬ちゃんが可愛いとかどうのこうのって言ってた気がするし」

この場に似つかわしくない、低い声がした。

「そうなの?
ってか、聞いちゃったって。
なんで……」

部屋のドアを開ける。
すると、一昔前のメモリースティックウォークマンのような大きさの機械を右手に持った麗眞くんが立っていた。
いたずらっ子みたいに舌を出しているところを見ると、確信犯か。

「もう!
ガールズトーク立ち聞きするとかオトコとしてサイテーだよ?」

「そうそう。
麗眞くん、見損なったわ」

頬を風船のように膨らませている椎菜ちゃんを見かねてなのか彼女に聞こえるように言った。

「仕方ないじゃん?
入浴時間、前の先に入ったクラスが巻いてくれたおかげで、もう入りに行っていい、ってことを伝えてくれって先生に頼まれたんだから」

「はいはい」

彼はまだ拗ねている椎菜ちゃんを手招きした。そして、彼女の耳元で何事かを囁いている。

それを言われた彼女が顔を真っ赤にして私たちのところに戻るから、何を言われたのか気になってしまう。

これも、きっと線香花火トーナメント勝者の陽花ちゃんにとっては格好の餌食だ。

「部外者は自室に戻れ!」

私と深月ちゃんが協力して、部外者の麗眞くんを部屋の外に追い出す。

各々が準備した入浴セット一式を持って、エレベーターを降りて大浴場に向かった。

それぞれが近いロッカーを陣取って、服を脱ぎつつ話す。

「で?
どうなのよ、美冬。
その今付き合ってる、っていう彼氏さん。
美冬はちゃんと好きで、一緒にいたいって思うの?

一番大事なの、そこだと思うんだよね」

華恋ちゃんの言葉に同調するように、椎菜ちゃんが後を引き継ぐ。

「そうそう。
結局、美冬ちゃんはどうしたいの?

もやもやした気持ちを抱えたまま、ズルズル付き合い続けるのは賛成しない。

美冬ちゃんもだけど、相手も可哀想だし。
時間ももったいない」

椎菜ちゃんは、フロントパネルにシフォンプリーツのついた、ネックラインのスカラップが花びらのように見えるブラジャー。
ウエストのスカラップを活かしたデザインのパンツという白いショーツ。

それを脱がないまま美冬ちゃんにアドバイスしている。

ショーツのサイドからバックのウエストに飾られたプリーツフリル。
さらに、下着の効果なのか、いつもより膨らみが大きい上に、いつも以上にくびれがある気がする。

つい目を奪われてしまう。
相変わらず、下着に凝っている。

さすが、恋する乙女が現在進行形なだけのことはあるなぁ、と思う。

恋愛経験なんてこれっぽっちもない私は、ただ感心することしかできないけれど。

「うん、そうだね。
ちょっと考えてみることにする」

美冬ちゃんはそう言って、タオルで隠しつつ下着を脱ぐと、さっさと身体にタオルを巻いた。

タオルを巻いていた私の手を引っ張って、先に浴場に入った美冬ちゃん。

掛け湯をしながら、彼女がポツリと呟いた言葉が、妙に胸に刺さった。

「男の人をコロッといかせるには、やっぱり、あれぐらいのスタイルじゃないと、振り向いてすらもらえないのかな」

ちらり、と覗いた彼女の裸体。
「美冬」という名前の通り、雪のように透き通った透明感のある肌。

幼児体型の私よりしっかりある、腰のくびれは大人っぽさを醸し出している。

胸の大きさも、あの時、ランジェリーショップの試着室でAの70だと言われた私より、ある。
Cカップくらいだろうか。

……十分だと思ったのは、私だけだろう。

掛け湯の後、タオルを巻く前に自分の身体に一度だけ視線を落とした彼女は、小さくため息をついた。