季節が過ぎるのはあっという間だ。

もう、最高学年になってしまった。

始業式の際、新しい教師の紹介があった。

女性の先生で、名前は新澤 愛実(にいざわ まなみ)

担当教科は公民で、私達の担任でもあるらしい。

そういえば、琥珀や美冬、小野寺くんや生徒会メンバーが、何やら慌ただしく動いていた気がする。

今年度から違う学校に異動される先生たちを体育館に呼んで、ミニコンサートを開いていたようだ。

しかも、その先生方の世代ど真ん中の曲であったり、先生方の背中を押す曲ばかりをセレクトしていたらしい。

いつ、そんな曲たちを練習してたの?

先生方は、琥珀の演奏や深月たちの歌が聴けないのは寂しくなると、感慨深げに語っていたらしい。

というか、部活動をやっている生徒もいるのに、よく体育館を使う許可が降りたなぁ。

それについては、上手くバスケ部やバレー部が大会で遠征に行っている日を狙ったらしい。

その情報源は巽くんか。

バレー部所属の彼はもとより、同じ体育館で練習しているバスケ部の情報も漏れ伝わって来るのだろう。

我が友人たちながら、その積極性と自主性には恐れ入る。

驚くのはこれだけではなかった。

今日の昼休みは、なぜかTVが点いていた。

しかも、地上波の番組ではなく、美冬と新しい教師の新澤が向かい合っている映像だった。

『今日は、お昼のグッドな日!の特別編をお送りします!

新しく正寮賢高等学園に赴任して来てくれた、新澤 愛実先生のインタビューをお届けいたします!

授業等で深く関わりがあるクラスはもちろん、そうでない人も!

新澤先生とのコミュニケーションのキッカケになればと思います。

新澤先生、宜しくお願い致します!』

新澤先生は、知り合いからの話で、この学園への赴任を決めたようだ。

高校がいい意味で変革する過渡期にその波を体感できる、という言葉らしい。

新澤先生のその言葉を聞いて、麗眞くんがあちゃ~、という顔をしていた。

この展開、ってもしかしてもしかしなくても。

「この新澤センセイってさ。

俺の親父とか、華恵さん、優作さんの同級生だよ。

旦那さんがアナウンサーやってることもあって、美冬ちゃんにはいい刺激になるだろうからな。

それもあって薦めたんだろうけど」

ああ、やっぱり……

自分も進路には散々悩んだから、そんな人たちの手助けになるようなアドバイスも出来たらいい、という。

それと同時に、選ばれたばかりの生徒会長によって、学園がいい方向に変わるその波を体感したいという。

協力も惜しみなくすると。

今は、私達が最後の学年だ。引き継ぎもしているよう。

異装届を書類形式ではなく、それぞれの生徒手帳に判を押す形にすることを提案中だという噂を聞いた。

皆、頑張っているなぁ。

華恋は、新年度から正寮賢の近くの寮から通っている。

門限は24時だったり、寮に住むもの以外を自室の自分の部屋に泊めてはならない等の細かい決まりはあるようだ。

寮生活にも少しずつ馴染んでいるらしい。

いつの間にか仲良くなったらしい隣の部屋の女子と2人で動画を観るなどをしているという。

こんな動画だよ、と私にも観せてくれたことがある。

駅や商業施設内にあるストリートピアノを見つけては、観客の1人にリクエストを募り、即興でピアノを弾いている動画だった。

その他にも、ゲームセンターにある太鼓を叩くゲームや、ドラムを叩くゲームをプレイしている。

あっさりと最高難度をクリアしていた。

あまりに凄いプレイなので、それを一目見ようと人だかりまで出来ていた。

まるで琥珀みたいだ、と思ったが、よくよく見ると身長や選ぶ私服のセンスが琥珀本人だ。

『お、琥珀ちゃんの動画じゃん。

いい画角で撮って欲しい、って言われるから、俺もたまに動画撮影係として呼ばれるの。

美冬に浮気してるとか思われないか心配」

という小野寺くんの言葉で、本当に琥珀本人だと分かった。

っていうか、ストリートピアノ演奏しているときに顔映ってるけど、顔バレしていいの!?

数年前に彗星のごとく現れて高校生でデビューした人がいたけれど、その子だって素性は隠していたはずだ。

インタビューでも声のみの出演だったから印象的だ。