空港に着いて、荷物を持つと、皆で記念写真を撮ろうということになった。

せっかくだから、誰か近くの人に写真を撮ってもらえるか頼んでみるという。

「Excuse me.
Could you take a picture?」

通りかかった白人の男性を掴まえて気軽に頼める辺りは、さすがは深月だ。

しかも発音も流暢だ。

相手もOKしてくれた。

いい人だ。

白人の人、どこかで見た記憶があるような気がしたが、すぐには思い出せなかった。

相沢さんがデジタルカメラを渡してくれて、何枚か写真を撮ってくれた。

最後に、誰かのスマホを拝借して写真を撮ってくれた。

最後の1枚を撮った後、私と目が合ったその男の人は、パチ、と片目を瞑った気がした。

気のせいかな……?

あらゆる意味で、それが気のせいではなかったことを、後で知ることになる。

「もう夜だ。

ホテルに行って、夕飯の後寝てくれ。

明日は班行動だぞ!

くれぐれも、夜更しせずにしっかり寝るように!

時差ボケ、予想以上にくるぞ!」

学年主任がそう言うから、バスに乗って皆でホテルに向かった。

先に着いたクラスは、もうホテルにいるらしい。

「うわ、すご……」

ホテルに着くと、スーツをビシッと着込んだ2人が丁寧に、寸分違わない角度とタイミングでお辞儀をした。

何ていうか、この所作、麗眞くんのところの執事やらメイドさんみたい……

「ホラ、行こうぜ、理名ちゃん」

呆気にとられている私の肩をそっと叩いて、エレベーターへとエスコートてくれる麗眞くん。

麗眞くんの空いた手は椎菜の左手を握っていて、カップルだなぁ、と思わせてくれる。

飛行機に乗る前はなかった薬指の指輪も、ちゃんと光っている。

「相沢に没収されたの。
検査で引っかかるから。

あ、そうそう。
理名ちゃんに渡してくれ、ってその相沢が。

いつもの機械に、翻訳機能をつけたみたい」

もう、彼の口からどんな単語が出て来ても驚かない、そのはずだった。

それなのに、つい口が開いてしまう。

こんな数時間で出来るものなんだ……

私の後ろについてエレベーターに乗っていた桜木くんにもそれは渡されていた。

「荷物置いたら、またこの1階に戻ってくれだってさ。

1階のレストランでビュッフェだそうだ。

セキュリティーボックスはあまり信用しないで、貴重品だけは持っておけよ?」

男子の部屋がある階は私達のフロアの下らしい。

残念そうにしている椎菜の肩を軽く叩いて、カードキーをかざして部屋に入った。

「う……わぁ……!」

黒と白のを基調にした部屋。

こういう部屋のほうが好みだ。

部屋に驚いた様子もなく、ベッドに腰を下ろして、息をついた椎菜。

もしかしなくても、ここがスイートルーム、ってやつで。

麗眞くんと椎菜、何回もこういうところ行ってるの?

だから平然としていられるの?

「別に恋人同士が泊まるからスイートルームじゃないよ?

2つの部屋が一続きになってるからかな?
そう呼ばれるの。

ここ、全室スイートルームらしいし。

ちなみに、一応言っておく。

麗眞と2人でホテルには泊まったことはまだないよ?

まだ、ね?

卒業したら2人で行きたいね、って話はしてるけど。

そのときにスイートルームのことも、教えてもらっただけだから。

荷物置いたら、貴重品持って、行こ?

みんな多分来る頃だし。

美冬たちにも会えるよ」

うわ、スイートルーム=恋人同士が泊まる部屋、ってことじゃなかったんだ……

ってか、2人で泊まる話、してるんだ……

恋人なんだもん、当たり前か。

拓実とは、いつ麗眞くんと椎菜みたいに、恋人らしいことできるんだろう。

カードキーと、財布と、パスポートの入ったポーチを小さい鞄に詰め終える。

スキップせんばかりの椎菜の後を追うように、部屋を出た。