翌日も、午前と午後の2回公演の劇は問題なく終わった。

「いいぞお前たち……!

いい演技だった!

素晴らしい……!

アドリブをものともせず、息もぴったりで、こういうのが見たかったし、自分でも作りたかったんだ……!」

担任教師は、目を潤ませていた。

麗眞くんや椎菜、巽くん。

ナレーション役の美冬も、脚本の華恋や深月も。

カメラや照明につきっきりだった小野寺くんまでもを褒めちぎった。

碧と黒沢くんも、私たちに付き合ってまだいた。

麗眞くんの父親の計らいで、後夜祭も居ていいと言われたのだ。

「昨日、たまたま理事長さんに会ったの。
その時に言われたんだ。

『碧ちゃんも、昔の皆とはしゃぎたいだろ。
それに、黒沢くんも、可愛い妹の活躍を見たいだろうし。
後夜祭への参加は歓迎するよ』
って。

理事長さんらしいなぁ」

後夜祭では、再び私と琥珀が男装して、麗眞くんがメイドに女装する羽目になったのだ。

というのも、結果発表があるのだ。

プロジェクターに、ダイジェストで一般の人を入れる前の、ステージ上での様子が映し出された。

「うわ、頼むから録画とか止めてくれよ、姉貴にバカにされる……

一生ネタにされる……」

珍しく顔を真っ赤にしている麗眞くん。

何だか彼のこんな表情はめったに、というかこれを逃すと、金輪際見れない気がする。

私の男装姿を拓実くんに見せるべく、文化祭初日のステージの全てと、結果発表までを録画しているのだという。
これは小野寺くんからの情報だ。

ドンマイ、麗眞くん。

『それでは、皆様、長らくお待たせいたしました!

女装部門のグランプリを発表いたします!

グランプリは、1350票を獲得した、メイドのまーちゃんです!』

「まーちゃん!」

「可愛いぞー!」

観客から声が上がる。

「グランプリだなんて、まーちゃん、嬉しいー!
ご主人様のおかげですにゃん」

準グランプリは、何と桜木くんだった。

お嬢様学校に通う女子高生のコスプレで登場していた。

その所作の上品さと、清楚さがツボに入ったようだ。

「父親が麗眞の家の執事の教育係だって言ってたからな。
知らない間にその所作が息子にも受け継がれてたんだろう」

ポツリと秋山くんが的確な評価をした。

それに反応するボキャブラリーも暇も、私にはなかった。

何せ、もう一度男装しなければならないのだ。

『それでは、男装部門のグランプリを発表します!

グランプリは、帳くんです!

そして、準グランプリは、岩崎くんです!

おめでとうございます!

なお、グランプリには通販サイトで使えるギフト券が、準グランプリには3000円分の図書カードが贈呈されます!

なお、それぞれの賞にはおまけとして、食堂で使える定食のデザートサービス券1年分が付きます!」

「うぉー!
いいなー!
俺にもくれー!」

「羨ましいぞチクショー!」

「皆ー!
後夜祭はこれからが本番だぞー!

皆で楽しく、お祭り騒ぎしちゃおう!

トップバッターは、学園公認カップル率いるバンドの登場です!

では、存分に弾けちゃおうー!」

美冬、いい具合に盛り上げてくれるなぁ。

私たちが、流行りの歌をバシバシ歌って盛り上げると、琥珀と友映ちゃんは連弾でピアノを披露していた。

もちろん、琥珀も立て続けに曲を披露していて、アンコールまで貰っていた。

そして、何と琥珀ちゃんとの連弾で秋山くんもピアノを弾いていた。

ピアノが弾けるのはキーボード担当だから知っていた。

指の動きもペダルを踏む足さばきも優雅で、深月はピアノを弾く彼に見惚れていた。

夜の19時。

後夜祭は終了して、文化祭の後片付けの後に通常授業になる。

土日が潰れたので、明日からの2日間は振替休日なのだ。

校舎を出ると、見慣れた車に黒沢兄妹、碧と巽くん、桜木くんも乗っていた。

「2日に渡って行われた文化祭、お疲れ様でございました。

これから、いつものお屋敷でなく、都会の別荘にお連れいたします。

そこで、あまり騒ぎ過ぎなければ、テラスで皆様でお食事を囲むのはいかがでしょうか」

都会の別荘、とはどんなところだろう。

麗眞くんと椎菜、深月や琥珀は知っているらしい。
彼女たちの後に付いて行った。