「ホラ、理名!
なーに一人でたそがれてんの!
動画撮るよん!」

「ホラ、適当に野菜でもなんでも串に刺す!」

そう言われて、パプリカを慌てて串に刺して、土鍋の中で音を立てるチーズの海に浸す。

ちら、とカメラに目線をやると、動画の音は停まった。

「オッケー。
いいの撮れたー!

皆に送るね」

すぐさまそれは送られたらしい。
私のスマホにも届いていた。

美冬や深月は、スマホを空いた手で手際良く操作している。

各々の彼氏に動画を送りつけているようだ。

私と華恋、琥珀は、すっかりテーブルに乗ったフォンデュやピザに夢中だ。

「やっぱり、誰かといるって最高!

皆を呼んで良かったよ、ありがと」

琥珀が改まって言うので、私で良ければいつでも遊びに行くよと伝えた。

「とか言って、いつかは巽くん呼びたいんでしょうが」

「うーん、まぁ、いつかはね。
呼びたい気持ちはあるけど。

ウチの父親が帰ってくる日と巽くんが来る日がバッティングするとちょっと面倒なんだよね。

『俺より強い奴じゃないと娘との交際は許さん』
とは言わないだろうけど。

見込みあるかくらいは品定めされそう。

それはいくら何でも失礼じゃん?」

「うーん、でも、奈斗さんはそこまでは言わないと思うわ。

娘の琥珀が選んだならそれでいいとか言いそうね」

相原さんが楽しそうに笑いながらハーブティーだろうか、をカップに注いでいる。

「琥珀が気になってる子、すごいいい子なんですよ?

何せ、琥珀が心配でわざわざ遠回りして帰るくらいだし。

琥珀が仲良さそうに、自分の親の同僚の息子と喋ってるのを見て、不機嫌そうにするし。

琥珀ラブなのを、隠したいけど隠しきれてない感じも可愛くて」

恋愛のカリスマの華恋が何か言っている。

そんな話をする合間にも、あれよあれよとフォンデュするバゲットやら野菜は食卓から消えていく。

バゲットをフォンデュして、口に入れたところに、華恋が爆弾を投げてきた。

「まぁでも、今一番応援するべきはこの眼鏡の子ですね!

何せ、遠距離恋愛になる子に、あと4日後に告白するんですから!」

その台詞を聞いて、飲み込むべきバゲットが気管に入った。

咽る私に、美冬が慌てて紙コップに汲んだ水を差し出してくれた。

優しいな、美冬は。

「もう、なんてこと言うの、華恋!」

「ん?
だってホントのことじゃない?」

「いいわね、皆青春、って感じ。
オバちゃんも昔に戻りたくなってきたわ。

ウチの娘は伴侶見つけたの、あなたたちと同じくらいの年頃だったもの。
羨ましいわ」

チーズフォンデュとピザが食卓から消えると、食後のハーブティーを飲みながらいろいろな話をした。

相原さんは料理教室を開いていて、それなりに生徒もいたが、そろそろレシピを考えるのがキツくなってきたという。

引退を考えた矢先に、琥珀の母親から家政婦の話を貰ったこと。

その料理教室は息子と息子のお嫁さんが継いだこと。

息子のお嫁さんとも仲がいいこと。
相原さん自身の話もたくさん聞いた。

私たちの恋愛話も時々聞いてもらって、夜も更けてきた頃。

相原さんからお風呂沸かしておいたから入っていけばという言葉を貰った。

遠慮なくそれに甘えることにした。

琥珀の案内でお風呂があるという3階への階段を上がる。

浴室にはシャワーが2つに、大きなヒノキの浴槽がそびえ立っていた。

木目調の壁も高級感を醸し出している。
美冬と華恋と私がこちらの広いお風呂に入ることになった。

美冬と深月は、チーズフォンデュ動画への返信が各々の彼氏から来たようで飛び跳ねて喜んでいた。
青い春、ってやつだな。

深月と琥珀は部屋にあるジャグジー風呂を使うことになった。

「お風呂広いね!

こんな家、住めたら私は夢みたいなんだけど。

琥珀自身は、あんまりよく思ってないみたいじゃない?」

私が常々思っていることを口にすると、皆頷いた。

「まぁ、確かにね。

こんな広い家で、家政婦の相原さんが来てくれるとはいえ、ほとんど一人暮らしみたいなものだもの。

寂しいって思うのも仕方ないんじゃないかな」

「うんうん。

でも、父親が深月と麗眞くんと同じ芸能人だからね。

忙しいんじゃないの?

アクション映画にバシバシ出てるし。

母親もコンクールでバンバン入賞して賞を総ナメにしてるプロのピアニストで、演奏会やコンクールで海外を飛び回ってるからね。

両親とも忙しくちゃ、無理もないけど。

だからこそ、琥珀には巽くんをものにして、幸せになってほしいのよ。

いっそのこと、琥珀の家に一緒に住めばいいのよ。

それにしても、早く告ればいいのにお互いに。まったくもう」

高校生で同棲は早いんじゃないか、と思ったが言える空気ではなかった。

「まぁでも、仮にも琥珀の両親にとっては大事な娘だからね。

琥珀のお父さんとか甘やかしてそうだし、簡単に許可降りるわけないか」

浴槽の横にTVがついていることに誰かが気付いて言う。

何気なく付けると、たった今話題に出ていた琥珀のお父さんがテレビに出ていた。

「うそ、琥珀のお父さんじゃん!」

「出てる映画の宣伝でしょ、多分」

「琥珀も綺麗な顔してるから、やっぱりお父さんの血は引いてるのよね。

強いしダンスは上手いし、ピアノが上手いところはお母さんの血が入ってるし。

天は二物も三物も与え過ぎなのよ。

本人が気づいてないだけで、意外に琥珀目当ての男子、いっぱいいるんだけどな」

華恋はいったいどこからそんな情報を仕入れてくるのだろうか。

言うだけ言って、華恋はついているテレビの電源をオフにした。

ちょうど琥珀の父親が出題されたクイズに正解したカッコいい場面だったのに。

ドンマイ、琥珀のお父さん。

浴槽から上がり、脱衣場で各々のパジャマに着替える。

先に上がったのだろうか、場所が分からないと踏んだ琥珀と深月が待っていた。

「あ、ごめん、待たせちゃった?」

「気にしないで?

『明日もあるんだからいつまでも女子たちで話してないで早く寝ろ』

そう電話をかけてきた彼氏さんと話し込んでる深月を待ってたから。

ね?深月」

「だって、ミッチーったら、そんなにフォンデュしたいなら、フォンデュの店探しておく。

夏休みに入って落ち着いたら行くかってお誘いくれたんだもの」

何だかんだ、ラブラブだな。
深月と秋山くんも。

寝室に行くと、懲りずにガールズトークが繰り広げられた。

寝室には窓が4つあり、夏は涼しく、冬は陽当りも良さそうだと思った。

ベットが2つあったが、この人数では寝られないので、相原さんが布団を持ってきてくれた。

布団でも抵抗がない華恋と私が布団行きにして他の3人はベッドだ。

セミダブルだから2人で寝ても窮屈さは感じないという。

既に初体験を終えている深月と、椎菜と麗眞くんほどではないが何度もそういうコトをしている美冬。

彼女たちから、いろいろと朝や昼間に聞くには刺激が強すぎる話をたくさん聞いた。

混乱した私は早々に寝ることでトークの輪から抜けた。

翌日、起きるとダイニングには相原さんお手製の料理が並んでいた。

それを食べたら、誰が言うでもなく、自然な流れで各々解散となった。

私は先に帰ったが、皆はまだこの広い家にいるようだ。

皆、何をするつもりなんだろう。
その答えは、終業式の日に分かるのだった。