「盛り上がってるかお前らー!」

「もっと声出せー!」

「騒げー!」

カラオケでも皆羽目を外しまくった。

主役の華恋ちゃんは皆としきりにデュエットをしたがった。

拓実くんは自分の十八番だというラブソングをいくつも入れて歌っていた。

恋する喜びがストレートに歌われた曲は、私に向けてのものかと自惚れてしまう。

カラオケボックスに、かれこれ5時間くらいはいただろうか。

そろそろ、歌いすぎで声が出ないと判断されると、皆にのど飴が配布された。

その後、それぞれの部屋に案内された。

私を迎えに来たときに麗眞くんが言った台詞、『修学旅行の前哨戦』。

これが意識されているのだろうか。

きっとドイツに行くため、修学旅行が出来ない拓実くんへの配慮なのだろう。

男子は3階、女子は4階と階が分かれている。

きっとカップル同士で泊めるとイロイロとあるからだろう。

カップルがいない人同士で相部屋になると微妙というのも理由の1つなのだろうが。

「お前ら、風呂先に使っていいよ?
2時間超えるようなら強制的に上がらせるから、そこだけは気をつけて」

麗眞くんの言葉に、え、と思った。
下着類の類は持っていない。

高校の体育の授業で着るジャージなら、週の終わりに、使っても使っていなくても持って帰って、洗濯することにしているから、今日手元にあるが。

何かあってほしいと願いながら体操服の袋を漁ると、下着の上下を発見。

夏場は汗をかくから体育の後とかに交換出来るように、そこまでお気に入りじゃないやつを入れているという深月や美冬の言葉を聞いたことがあった。

それもそうかと思い、ジャージとは別に巾着に入れておいてあったのだ。

過去の自分、ナイス!
そして美冬と深月、いいアドバイスをありがとう!

2人には足を向けて寝られないな、こりゃ。

「ほら、早く!

時間なくなる!
案内するから、私についてきてね!」

言われるがまま、椎菜についていく。

椎菜は、この広い屋敷の中で、確実に皆が迷わないよう、階段が終わると振り返っていた。

時々、皆いるか点呼まで取っていた。

まるで修学旅行の引率の教師みたいだ。

無事に大浴場と言っていい場所に到着した。

皆も何度かこの屋敷に泊まるなどお世話になっているだけのことはある。

皆、手慣れた様子でロッカーを開けて、脱いだ服は軽く畳んでしまう。

そして、鍵を閉めて指紋を登録する。

これで、よくスーパー銭湯でそうするように、手首に鍵を付ける必要はない。

あれ、邪魔だしチャラチャラ音がして気が散るのよね。

身体にバスタオルを巻くと、華恋の後を追うようにシャンプーやボディーソープ、メイク落としを取ってカゴに入れ、かけ湯をしてから洗い場に向かう。

すでに美冬と深月は洗い終えてお湯に浸かっているようだ。

「お、椎菜。早くおいでー」

「んで?
結局放課後、もとい夜はどうなの?
麗眞くんって。

結構、というかかなり独占欲強いし溺愛してるから、4Rくらいいく感じなの?」

「うーん、4はさすがにないかな。
私が3Rいくかいかないかで疲れて寝ちゃうし。

本人は4どころか5でも6でも歓迎だろうけど」

「うわ、何回もするんだね、どっから湧いてくんの。
有り余りすぎでしょ。

賢人なんて、割と丁寧だからかな、
私も1回で満足なの。

賢人自身も何回もする元気はないみたいで。

土日にここのお屋敷とかにお世話になると、朝にあわよくば、ってこともあるけど」

「そうなの?
まぁ確かに、ちょっと強引な賢人くん、想像つかないかも」

「でしょ?賢人はね、あんまり私の方から攻めることも強要してこないし。

気が向いたらでいいよって言ってくれるの」

「いいなぁー。
羨ましい。

ちょっと賢人くんと交換してほしいかも。

麗眞なんてもう、たまには私から責めてほしいな?

なんて色気ある表情で言ってくるのよ。
私に触らせたり咥えさせたり、まぁいろいろキワドいお願いを次々と。

さすがに本人も分かってるのか、苦いのを私の口内に、なんてことはないから、そこは安心なんだけど」

「うーん、麗眞くんの場合は早く口よりイイところに出したいからに一票だな」

「私もそうだと思う。
まぁ、私はまだその領域までは未達だからさ、ほんの推測だけど。

あ、椎菜、念のためピル飲んどいたほうがいいよ。

こんなんじゃ、義務教育じゃないにしろ高校生とか大学生のうちに孕ませられちゃうよ」

「あー、椎菜ってば、顔真っ赤!」

「深月こそ。
未遂の一言だけじゃ済まさないよ?
ぶっちゃけどこまではいったわけ?」

話題が下世話だ。
私には何の話か、さっぱり分からない。
いいのだろうか。

ディープな会話が繰り広げられているうちに、私も洗い終えてお湯に身体を沈めた。
ディープな会話は終わった。

しかしその後すぐに、椎菜が口火を切る。
その顔は伏せられていて、声色もいつも明るい彼女のそれではなかった。

「ちょっと、気になることがあって。
麗眞には、言わないでね?」

「うんうん、もちろん」

皆で椎菜の話を聞く。

「なるほど。
今回の理名と拓実くんの騒動で、もしかしたら麗眞くんも、って予感がしたってわけね」

今回は私と拓実くんが遠距離恋愛になることになる。

いずれ椎菜と麗眞くんも、と不安になったらしい。
そんな考えに至った根拠もしっかり持っているようだ。

麗眞くんが日直の日だった気がする。

時間はその前日に遡る。

「いつもならベッドに直行してすぐにそういう雰囲気になるんだ。
だけどその日は違ったの。

『拓実くんが理名ちゃんに言わずにドイツに行くつもりだとは聞いているんだ。
だけどそれが納得いかない。

何とか、拓実くん本人の口から理名ちゃんに伝える方法を計画したいと思ってる。

だけど、どうすればいいのか分からなくて悩んでるんだ。

椎菜なら、どうする?』

麗眞は、ちゃんと悩んでることを私に洗いざらい話してくれて、そこも嬉しかったの」

「それで、なんて言ったの?」

美冬が、一気に話しすぎて咳き込んだ椎菜の背中を擦りながら、ゆっくりでいいからと優しい言葉掛けをしていた。

「私は……麗眞が海外に行くとしたら。
きちんとその理由を伝えてほしい。
行ってほしくないなんて、ワガママは言わないよ?

寂しくなったら会いに行く。
それでも寂しくなるようなら、ビデオ通話とかで声聞く。

ちょっと古いけど、文字で思ったこと残せる、交換日記アプリとかもいいかも。

ちょっとした悩みとか、体調不良とか、忙しい日とか分かるし、連絡取る予定も立てやすいでしょ?

そういうこともやって、それでも寂しくなったら、距離置こうとか口走っちゃうかもしれないけどね?

いつもより、身体を密着させて、強く抱きしめられたのが気になったかな。
ちょっと目も潤んでたの。

その後は、いつものイチャラブ。
その途中よ。
いつもよりたくさん痕刻まれたから、ブラウスのボタン全部閉めることになったの」

「あとは、ピロートークのときにね、椎菜っていう最高な人を選んで良かったって言い方したの。
私自身の言葉に何かを確信したかのようなニュアンスが感じ取れて、ちょっとあれ?って思ったかな」

話を聞き終えると、皆が押し黙る。

口を開いたのは、こういう話題はお手の物の華恋だ。

「もしかして、本人もどこかのタイミングで海外に行く気なのかもしれないわね。

高校卒業後とか」

「うん、確かに、その可能性もあるかも」

思い出すのは、まだこの学園に不慣れだった頃の宿泊オリエンテーション。

彼女たちには、まだ、卒業式後にカナダに発つ旨を伝えるな、と念押しされたのだった。

私がそんなことを思い返す間にも、話は進んでいた。

「なるほど。
つまり、もし仮に理名と拓実くんみたいに、遠距離恋愛になったと仮定すると。

麗眞くんと今と同じくらいラブラブでいられる自信が無くて不安だ。

寂しくなったらどちらからともなく距離を置こうという話になるかも、ってことか」

美冬が話をまとめる。

私も合点がいった。
そういうことか。

確かに、今は会おうと思えばいつでも会える距離だ。

連絡すらしなくてもあの二人ならアイコンタクトで通じ合えるかもしれない。

しかし、遠距離恋愛はそうはいかない。

ちょっと言葉が足りないだけで、すれ違いがおこる。

それが1回や2回なら修正できるかもしれない。しかし何回も起こると、修正すら不可能になってくる。

実際にそうなる可能性があるのが、遠距離恋愛の怖いところだ。

「大丈夫!
仮に椎菜が心配してるようになったとしたら、私たちに相談してよ!

その時は私たちが学生か社会人か、分からないけれど時間の許す限り力になるわ!

私たちより同性がガツンと言ったほうがいいなら、ミッチーとかにも頼めるし」

「そうそう。
椎菜がどうしたいかを直接聞いて、その上でアドバイスするよ、任せて!」

深月と華恋の優しい言葉に、椎菜の茶色い大きな瞳から一筋の涙が零れ落ちた。

「ほらほら、泣くな!
お風呂上がりに愛しの麗眞くんに泣き顔見せる気?」

景気づけのように、パシッと椎菜の華奢な肩を優しく叩くのが琥珀ちゃん、頭を優しく撫でるのが美冬だ。

「そろそろあがろっか。
麗眞くんに注意されないうちに」

私が言うと、皆さっさと上がって脱衣所で何やらやっている。

髪の短い子は髪を乾かしたり、ボディークリームを交換して塗ったりしていた。

私も手早く下着と高校の体育着を着て、ドライヤーを手に取る。
所要時間、15分。

私は、髪が肩くらいになったら、すぐに切りに行く。
ドライヤーが早く終わるから、こんなに髪が短いことには感謝しかない。

先に出て、外に万が一にも麗眞くんたちがいないか確認した。いないようだ。

と、思ったのに。

「りーなちゃん」

そう言って、誰かに腕を引かれた。