会場に着くと、皆がこちらに向かって手を振ってくれた。

中にはお皿を両手に持っていて手が振れない人もいたが。

「あ、理名に拓実くん!
はやくはやくー!」

いつものメンツに混ざって琥珀ちゃんもいる。

ワイドパンツにボーダーの半袖ニットだが、鎖骨から胸元にかけてクロスしている紐の間から

私よりはある胸がチラ見えしそうで危険だ。

ここに巽くんがいなくてよかった。

いたら一悶着、いや、それ以上ありそうだ。

「拓実くん、ドイツ行っちゃうんだっけ?
でも、入試のときとかは流石に戻ってくるんでしょ?

その時はまた集まろ!
連絡ちょうだいね」

「ふふ、アネさんに連絡しなかったら金的喰らうだけじゃ済みそうにないんでね。

ちゃんと連絡しますよ」

「流石に友達にそれはやらないって。
不届き者で下衆な奴限定よ」

「ほら、お前ら。お二人さん分のスペース空けて食べたいもの取らせてやれよ。

いつまでも乾杯できないだろ?」

麗眞くんがそう言うと、皆はさすがの手際と団結で、席に戻る。

「琥珀ちゃんから拓実くんは甘いもの好きだって聞いてるから、残してあるよー」

「理名には杏仁豆腐とかコーヒーゼリーとか、そこまで糖度高くないもの残してあるよー」

皆、ちゃんと覚えてくれてたんだ。

置いてあるのはスープやらパスタやらパンやらサラダ。それにスイーツは種類豊富だ。

どこぞのビュッフェスタイルのレストラン並のラインナップだ。

軽食を多めに取る私と、軽食は程々にして甘いスイーツを多めに取る拓実くん。

食の好みは真逆だ。

飲み物ももちろんあるという。

アイスコーヒーは深月のお母さんにご馳走してもらったから、アイスカフェオレにすることにした。

拓実くんはアイスコーヒーにするようだ。

華恋と拓実くんはお誕生日席だ。

拓実くんの斜めの角席に座ると、麗眞がコップを持って席を立った。

「本日はお忙しい中お集まりくださり、ありがとうございます。

今日は少し遅れましたが、私の親友、美川 華恋が学園に復帰致しましたこと。

そして桐原 拓実がドイツへ留学するということで、親睦を深めるべくこの会を主催いたしました。

今日は皆で飲んで食べて歓談して、大いに楽しみましょう!

それでは、華恋と拓実くん、それぞれの健康と今後の一層の活躍を願って、乾杯!」

「かんぱーい!」

周囲の人と、それぞれグラスを合わせる。

「深月、探しにきてくれてありがと」

「ううん、いいの」

秋山くんは、この屋敷に来たときより少し覇気がないように見える。

「道明、お前何があったわけ?」

拓実くんが話を振ると、秋山くんが話し出す。

深月の母親と話し込んでいた私を迎えに来た娘の深月。
その後ろに秋山くんもいた。

秋山くんは深月の母親と会うのは初めてだったようだ。

「そこで、いろいろ聞かれたよ。

いつから深月のことを好きだったか?とか、
深月とはいつからお付き合いを?とか。

極めつけは、いつかは結婚を考えているのかしら?
だったな」

「そこでミッチーったら、ゆでダコみたいに顔真っ赤にして!
動画撮りたいくらいだった」

口を挟んだ深月の頭を、ぺち、と優しく叩いた秋山くんは、話を続けた。

「俺は臨床心理士を目指しています。

きっと、深月さんに出会えていなかったら、こんな素敵な夢は見つけられていなかったと思うんです。

その夢が叶って、しっかり将来のキャリアを描けるようになったら、その時こそ結婚のタイミングだと思っています。

だから、もしかしたら娘さんの結婚適齢期を少し過ぎてしまうかもしれませんが、ご了承下さい」

俺がそう返すと、深月の母親は大爆笑してさ。

『ほんと、深月から話を聞いてたとおり、生真面目な子ね!

気に入ったわ!

臨床心理士目指してるならいろいろアドバイス出来るわ。

何か困ったらいつでも訪ねていらっしゃいな。

深月がいなくても大歓迎よ。

でも、予め予定が入っていることもあるから、訪ねたい日を前もって連絡くれるかしら?

深月づてでも構わないから』

って言われて名刺貰って、あのバーから出られたってわけ。
俺、深月の母親に大層気に入られたみたい。

ちょっと安心した」

「気に入ってるよ、もちろんね!

臨床心理士目指してるって聞いて、顔には出さなかったけれど。

心の中では小躍りしてたんじゃないかな、お母さん。

それと、高校卒業したらすぐにでも結婚したいですとか万が一にもミッチーが答えてたら、
その時点で相応しくないって烙印押されてたかもしれない。

私の母親もね。

自立してないうちに結婚して崩壊した家庭をいくつも見てるの。
仮にも自分の娘をそんな目には遭わせたくないだろうから。

ま、ミッチーなら絶対そんな答えしないって、私は分かってたけどね」

さすがは深月だ。

何かいいなぁ。

すでに母親の許しを貰っていて、結婚まで案外トントン拍子で進みそうだ。

案外この2人も早く結婚しそうだ。

何だかんだ言いつつも、適齢期には間に合いそうな予感がする。

軽食のパスタを食べ終えて、コーヒーゼリーに手をつけながら、そんなことを思った。

あらかたテーブルの上の料理が空になると、皆満足したと判断したようだ。

麗眞くんが皆をダイニングからカラオケボックスに連れ出した。

どうやら宴はまだまだ終わらないらしい。