理系クラスの授業が終わると、昼休みだ。
今日のお昼ごはんの場所は食堂ではなく、広い庭園。
4ベンチと小さな噴水があり、憩いの場となっている。
暑い中、わざわざ外でお昼ごはんを食べる人はいないだろうと見越してのセレクトだ。
美冬や椎菜と共に、深月の事情聴取を始める。
「あの日ね、理名を探して屋上まで行ったけど結局いなくて、屋上から一瞬だけれど下を覗いたら、フラッシュバック起こしたみたい。
まぁ、ちゃんと柵はあったから後ろに倒れそうになったところを、ミッチーに支えられた感じで。
私が理名を探しに屋上行くのもなんとなく分かったのが、ミッチーらしいよね。
私のために息切らして来てくれたのも、ちょっとカッコよくて」
椎菜と麗眞くんの仲をさんざん冷やかしている深月だが、本人も相当だ。
「それでね、ミッチーったら、
『ついでに寝かせてもらえ。
まだ少し顔青いぞ。
そんなんで授業出る気?
俺はクラス違うんだから、授業中に倒れられても保健室まで連れて行ってやれないんだ。
そこは昔と違うってこと、ちゃんと自覚しろ』
ミッチーはそう言ってくれて。
私のこと、思ったよりちゃんと見て、気にかけてくれてるんだなって思ったら、胸がきゅって締め付けられるのを感じて。
好きって、こういう感情なんだなって思った。頭は動いてないはずなのに、言葉は止まらなくて。
前に言ってくれた、正々堂々と私のこと守れるようにしたい、っていうあの言葉は、今も変わってない?って聞いたの。
ミッチーったら、顔真っ赤にしちゃって。
『変わってないに決まってる。
変わってたら、わざわざ深月の看病なんかしないって』
って、照れながら言われたの。
いつものミッチーって呼び方じゃなくて、名前呼び捨てにしてみて、目を丸くして振り向いたところに、キス、してみたの……」
そう話しながら、耳まで赤くして俯く深月に、いつもの心理学の解説をしているときの自信たっぷりな明るい彼女の面影はなかった。
「やるねぇ、深月」
「いつの間に、そんなことになってたわけ?
んで、秋山くんのリアクション、どんな感じだった?」
「ビックリはしてた。
『こういうのって、普通男からするものだし。
さっきの一瞬じゃ足りないからさ。
もう1回、いい?
あ、言わなくてもわかるよね?』
って言われて、今度はミッチーの方からしてくれた、感じかな」
「なるほど、その瞬間、私と麗眞と理名がたまたま覗いちゃったわけだ」
「え?見てたの?」
「そろそろ昼休み終わるし、深月の様子見に来たんだけど、いい雰囲気だったから帰ろうとしたら、たまたま目撃できちゃった。
理名ちゃんなんてドア開けようとしてたから、慌てて止めたんだけど。
麗眞なんかは、理名がこのまま入ったらどんなリアクションするんだろって面白がってたけどね」
「んも、面白がってる場合じゃないよー!」
ってか、あれ見られてたなんて、かなり恥ずかしいんだけど……
あ、ついでだからおまけで話すね。
あのキスの後のこと。
『深月はさ、ちゃんと好き?俺のこと』
って耳元で言うものだからくすぐったくて照れたけど、ちゃんと答えたの。
『大好きに決まってる。
じゃなかったらキスなんて絶対しない。
ミッチーだからだよ。
キスするのも、あわよくばその先もね?
いつになるかは、分からないけど』
我ながら恥ずかしいこと言うよね。
ミッチーに抱かれること覚悟してるみたいじゃんね?
そしたら、そろそろ昼休み終わるから授業出るからって、最後に軽くキスしてくれて。
いつも麗眞くんが椎菜にするみたいに頭なでてくれて。
『さっきの深月の答え、満点合格。
花丸だ。
あ、ノートは友達の誰かに頼んでおくから、寝ろよ?』
そう言い残して授業受けに行っちゃった」
「私たちより激アツでいいなぁ、2人とも。
私も麗眞に会って甘えたくなってきちゃった」
「いや、いつでも会ってイチャラブできるじゃない、アンタたち。
ちょっとイチャラブしすぎじゃない?って思うこともあるけど」
椎菜は美冬にツッコまれると、テヘ、と舌を出していた。
ガールズトークに夢中だった私たちは、ほとんど昼食を食べていなかった。
慌てて胃に流し込み、昼休みが終わる15分前に校舎に入った。
校舎に入ると、朝の男の子が昇降口近くのベンチに立っていた。
「あれ、えっと、どちらさま?」
「巽 優弥です。
よろしく。
朝は気分を害したかもしれなくて、それだけ謝りたくて」
深月が颯爽と巽くんとやらの前に歩み寄り、何やら小声で話しかけた。
巽くんは小さく首を縦に振ったように見えた。
その後二言三言会話を交わした後、美冬に向かって、グッと親指を突き立てた。
美冬は巽くんに話しかけた。
「あ、そうそう。
恋のご相談は、毎週月曜日の『お昼のグッドな日!』までハガキか手紙を送ってね!
悩みには誠実にお答えします!
じゃ、授業始まるからまたね!
巽くんも、授業頑張って!」
美冬、ちゃっかり宣伝してるし。
上手いなぁ。
「いやー、巽くんは投稿してくれるか不明だけど。
琥珀ちゃんあたりは近い将来、何かしら美冬の番組にハガキ寄越すんじゃない?
琥珀ちゃん、割と文武両道ではあるしピアノも弾けるし。
いろいろ才能あるけど、恋愛偏差値は低そうな印象なんだよね。
何があったかは、また事情聴取しなきゃなんだけど。
さっき話しかけたら琥珀ちゃんのこと気になる存在みたいだし。
昨日琥珀ちゃんのピンチを救ってから余計にその気持ちが高まったって言ってたよ」
「それは気になる話ですなぁー」
そんな会話をしながら教室に向かうと、麗眞と秋山くん、小野寺くんが琥珀ちゃんと話していた。
チャイムが鳴ったため、琥珀ちゃんは教科書や筆記用具を抱えて教室に向かってしまった。
私たちは彼女とすれ違ってしまったようだ。
「女の子の意見、ホントは欲しかったけど、皆教室にも食堂にもいなかったから。
麗眞くんたちから聞いて、何かしらアドバイスほしいんだ、よろしくね!
ごめん、急ぐから!」
美冬と深月にそう声を掛けて、琥珀ちゃんは上靴のかかとを引っ掛けながらパタパタと走っていった。
今日のお昼ごはんの場所は食堂ではなく、広い庭園。
4ベンチと小さな噴水があり、憩いの場となっている。
暑い中、わざわざ外でお昼ごはんを食べる人はいないだろうと見越してのセレクトだ。
美冬や椎菜と共に、深月の事情聴取を始める。
「あの日ね、理名を探して屋上まで行ったけど結局いなくて、屋上から一瞬だけれど下を覗いたら、フラッシュバック起こしたみたい。
まぁ、ちゃんと柵はあったから後ろに倒れそうになったところを、ミッチーに支えられた感じで。
私が理名を探しに屋上行くのもなんとなく分かったのが、ミッチーらしいよね。
私のために息切らして来てくれたのも、ちょっとカッコよくて」
椎菜と麗眞くんの仲をさんざん冷やかしている深月だが、本人も相当だ。
「それでね、ミッチーったら、
『ついでに寝かせてもらえ。
まだ少し顔青いぞ。
そんなんで授業出る気?
俺はクラス違うんだから、授業中に倒れられても保健室まで連れて行ってやれないんだ。
そこは昔と違うってこと、ちゃんと自覚しろ』
ミッチーはそう言ってくれて。
私のこと、思ったよりちゃんと見て、気にかけてくれてるんだなって思ったら、胸がきゅって締め付けられるのを感じて。
好きって、こういう感情なんだなって思った。頭は動いてないはずなのに、言葉は止まらなくて。
前に言ってくれた、正々堂々と私のこと守れるようにしたい、っていうあの言葉は、今も変わってない?って聞いたの。
ミッチーったら、顔真っ赤にしちゃって。
『変わってないに決まってる。
変わってたら、わざわざ深月の看病なんかしないって』
って、照れながら言われたの。
いつものミッチーって呼び方じゃなくて、名前呼び捨てにしてみて、目を丸くして振り向いたところに、キス、してみたの……」
そう話しながら、耳まで赤くして俯く深月に、いつもの心理学の解説をしているときの自信たっぷりな明るい彼女の面影はなかった。
「やるねぇ、深月」
「いつの間に、そんなことになってたわけ?
んで、秋山くんのリアクション、どんな感じだった?」
「ビックリはしてた。
『こういうのって、普通男からするものだし。
さっきの一瞬じゃ足りないからさ。
もう1回、いい?
あ、言わなくてもわかるよね?』
って言われて、今度はミッチーの方からしてくれた、感じかな」
「なるほど、その瞬間、私と麗眞と理名がたまたま覗いちゃったわけだ」
「え?見てたの?」
「そろそろ昼休み終わるし、深月の様子見に来たんだけど、いい雰囲気だったから帰ろうとしたら、たまたま目撃できちゃった。
理名ちゃんなんてドア開けようとしてたから、慌てて止めたんだけど。
麗眞なんかは、理名がこのまま入ったらどんなリアクションするんだろって面白がってたけどね」
「んも、面白がってる場合じゃないよー!」
ってか、あれ見られてたなんて、かなり恥ずかしいんだけど……
あ、ついでだからおまけで話すね。
あのキスの後のこと。
『深月はさ、ちゃんと好き?俺のこと』
って耳元で言うものだからくすぐったくて照れたけど、ちゃんと答えたの。
『大好きに決まってる。
じゃなかったらキスなんて絶対しない。
ミッチーだからだよ。
キスするのも、あわよくばその先もね?
いつになるかは、分からないけど』
我ながら恥ずかしいこと言うよね。
ミッチーに抱かれること覚悟してるみたいじゃんね?
そしたら、そろそろ昼休み終わるから授業出るからって、最後に軽くキスしてくれて。
いつも麗眞くんが椎菜にするみたいに頭なでてくれて。
『さっきの深月の答え、満点合格。
花丸だ。
あ、ノートは友達の誰かに頼んでおくから、寝ろよ?』
そう言い残して授業受けに行っちゃった」
「私たちより激アツでいいなぁ、2人とも。
私も麗眞に会って甘えたくなってきちゃった」
「いや、いつでも会ってイチャラブできるじゃない、アンタたち。
ちょっとイチャラブしすぎじゃない?って思うこともあるけど」
椎菜は美冬にツッコまれると、テヘ、と舌を出していた。
ガールズトークに夢中だった私たちは、ほとんど昼食を食べていなかった。
慌てて胃に流し込み、昼休みが終わる15分前に校舎に入った。
校舎に入ると、朝の男の子が昇降口近くのベンチに立っていた。
「あれ、えっと、どちらさま?」
「巽 優弥です。
よろしく。
朝は気分を害したかもしれなくて、それだけ謝りたくて」
深月が颯爽と巽くんとやらの前に歩み寄り、何やら小声で話しかけた。
巽くんは小さく首を縦に振ったように見えた。
その後二言三言会話を交わした後、美冬に向かって、グッと親指を突き立てた。
美冬は巽くんに話しかけた。
「あ、そうそう。
恋のご相談は、毎週月曜日の『お昼のグッドな日!』までハガキか手紙を送ってね!
悩みには誠実にお答えします!
じゃ、授業始まるからまたね!
巽くんも、授業頑張って!」
美冬、ちゃっかり宣伝してるし。
上手いなぁ。
「いやー、巽くんは投稿してくれるか不明だけど。
琥珀ちゃんあたりは近い将来、何かしら美冬の番組にハガキ寄越すんじゃない?
琥珀ちゃん、割と文武両道ではあるしピアノも弾けるし。
いろいろ才能あるけど、恋愛偏差値は低そうな印象なんだよね。
何があったかは、また事情聴取しなきゃなんだけど。
さっき話しかけたら琥珀ちゃんのこと気になる存在みたいだし。
昨日琥珀ちゃんのピンチを救ってから余計にその気持ちが高まったって言ってたよ」
「それは気になる話ですなぁー」
そんな会話をしながら教室に向かうと、麗眞と秋山くん、小野寺くんが琥珀ちゃんと話していた。
チャイムが鳴ったため、琥珀ちゃんは教科書や筆記用具を抱えて教室に向かってしまった。
私たちは彼女とすれ違ってしまったようだ。
「女の子の意見、ホントは欲しかったけど、皆教室にも食堂にもいなかったから。
麗眞くんたちから聞いて、何かしらアドバイスほしいんだ、よろしくね!
ごめん、急ぐから!」
美冬と深月にそう声を掛けて、琥珀ちゃんは上靴のかかとを引っ掛けながらパタパタと走っていった。