「おはよう……」

私は、2日ぶりに学校に来た。

「おはよー、理名!
もー、理名が風邪とはいえ、2日も学校休むなんて珍しいじゃん?
はい、これ。
休んでた分のノートのコピーだよ」

深月からノートのコピーを、クリアファイルがはち切れそうになるほど渡された。

「ミッチーったら、皆のを丁寧にまとめ直してくれてて。
そういうの、マメだからさ、昔から。
理系のは私がやったから安心して」

そういう深月の顔は嬉しそうだ。
ラブラブなんだな、秋山くんと。

いつものように、クラスが分かれる前の全体ホームルーム。

そのはずなのだが、急遽学年集会が開かれることが担任から通達されたため、体育館に集まることになった。

なんだろう。
学年集会など、めったにない。

夏特有の生ぬるい風が充満する体育館に大人数で集まることで、皆不満を覚え、あるものは制服を着崩していた。

「コラ、制服を着崩している生徒!
今すぐ直せ!
学年集会という公共の場だぞ!」

案の定、生活指導の教師から激が飛んでいた。

私たちは、この学年集会で衝撃的な言葉を聞いた。

壇上に立ったのは、理事長。
麗眞くんのお父さんだ。

「2年C組、文系の美川華恋だが、6月末まではは学校には登校しない。

理由としては、細かいことはプライバシーなので伏せる。

弟さんが亡くなってから家庭事情が絡んで精神的に不安定になり、自殺未遂をしたからです」

その話を聞いて、美冬がパニック障害の発作を起こして倒れた。

養護の伊藤先生によって保健室に連れて行かれるなど、混乱がみられた。

華恋がいる演劇部は、どうなるんだろう。
華恋自身の進路には影響しないだろうか。

そんなことを、考えていると。

「でもさ、華恋ちゃんのことをお前らが心配しすぎても仕方ないじゃん?

俺らは所詮、彼女にとっては他人なんだ。

血縁関係があるわけじゃない。
だからさ、俺らには、俺らのできることをやればいい。
俺はそう思うな」

その言葉に、うるうるしながらもしっかり顔を縦に振ったのは、麗眞くんの彼女の椎菜だ。

だが、そこでは終わらない。
深月が語気を強める。

「でも、心配は心配よ。
親友なんだから。

理事長さんのお話を聞いても動揺しなかった麗眞くんこそ、何か情報を知ってたんじゃない?

親友だからこそ、何があったのか、私たちには知る権利があるわ」

その横顔は、怒っているような、半分泣いているような、複雑な表情をしていた。

ふぅ、と軽く息を吐いた麗眞くん。
覚悟を決めたようだ。

「放課後、な」

告げたのは、その一言だけだ。

私たち仲間内の、暗黙のルール。

深月の一件があってから、仲間内で重大な話をするときは麗眞くんの家で、ということになったのだ。

放課後には、麗眞くんの執事さんが私たちを迎えに来る。
その際に、皆で彼の家に向かうのだ。

いつの間にか、壇上の話者が理事長ではなく、学年主任に変わっている。

「暗い話題で終わらせるのは主義じゃない。
お前らの士気が下がるからな。

よって、今から表彰を行う。

理事長より、良い行いをした人に送られる
『大変良くできましたで賞』が授与されるものがいる。

今から前に出てきてもらうぞ。

2年D組、文系クラス、帳 琥珀!
前に出るように!

彼女はな、他校の女子高生を痴漢から助けたらしい。
高校の最寄り、正瞭賢学園駅にて、痴漢をされた他校の学生を助けると同時に、痴漢した不届き者を駅員に引き渡したそうだ」

『大変良くできましたで賞』って、ダサいネーミングだなぁ……

前に出てきた琥珀ちゃん。

久しぶりに姿を見るからか、髪は前より短くなって、少し脚や腕の筋肉の付きがよくなっている気がした。

彼女が父親からビデオで教わっているというジークンドーの特訓の成果なのだろうか。

理事長から賞状と粗品を受け取って壇上から退場した琥珀ちゃん。

それを見届けた学年主任から、次に発せられた言葉に、目を見開いた。

「2年C組、理系クラス、岩崎 理名!

昨年、他校の学生と協力し、破水した妊婦に適切な処置をし、病院まで繋げたとして、
『人として素晴らしいで賞』を与える。
壇上に上がるように!」

は!?

そんな賞があるなんて聞いていないし、貰うなんて話も、聞いてないんだけど?

壇上に上がり、賞状と粗品を受け取る。

「なお、岩崎はこの集会が終わったあと、職員室に来なさい。

また、今回表彰されなかった皆も、励めよ!
表彰の実績は推薦入試を受ける場合、かなり有利になるからな。

もちろん、推薦を受けない場合でも、内申にはかなり上乗せするからな」

学年主任の声に、場が色めき立った。

もうなんやかんや言って高校2年生の夏だ。

少なからず、皆来年の大学受験を意識しているのだろう。

急遽行われた集会は終了となり、各々自分のクラスに戻った。