体育祭は、昨年に引き続き、成功で終わった。
今年は、学年優勝を勝ち取った。
深月は裁判の準備等も、再現ドラマの準備も、体育祭の練習と両立させていた。
傷ついた心には相当な負担だっただろうが、成しえたのは深月のメンタルの強さゆえだろう。
さすがは、あの母あってこの子ありということになる。
そして、体育祭が終わると、秋山くんは本格的に正瞭賢高等学園の生徒となった。
秋山くんは軽音楽サークルに入っていた。
ピアノを習っていたようである。
私までサークルに勧誘されたが、そのうち決断すると言って返事を保留にしている。
再現ドラマの準備も、着々と進んでいた。
完成したものは、夏休みに入る前の全校集会でお披露目されるという。
そして、その日に、無事に体育祭が終わったことを祝して、お疲れ様会を行った。
新しく編入した秋山くんの歓迎会も兼ねていたが、彼は途中から参加だという。
もちろん、場所は変わらず豪華な宝月家の邸宅だ。
本人不在なのをいいことに、ガールズトークに花が咲いていた。
「裁判に向けての事情聴取とか、妊振してないかの検査にまで付き合ってくれたんだけど。
1人だと不安だったから、それには感謝してるけど。
特に、妊娠してたらどうしよう、って思ってたから、いてくれて心強かった。
でもさ、だからって説教はなくない?
ミッチー、っていうのは道明のあだ名なんだけど。
ミッチーにめっちゃ説教されたの。
他人より自分のことをもっと大事にしろ、
自分を犠牲にしてつぶれるな。
わがままになれる若いうちからそんなんじゃ、自分がつまらない思いするんだぞって。
自己犠牲心が強いのは深月のいいところなんだけど、強すぎるのも問題だって。
いい塩梅覚えろって」
「言われたのはそれだけ?」
華恋の問いに、いつもの彼女らしくない蚊の鳴くような声で深月が答える。
「一応、告白はされた、かな……
『中学生の頃はからかうしか出来なかった。
今度はちゃんと、深月の側で正々堂々、彼氏っていう正当な立場で深月を守れるようにしたいから』
そんな台詞でね。
告白、って言っていいのか、分からないけど」
「それは遠回しな告白ですね!
道明くん、意外に奥手だったり?」
華恋が顔をニヤつかせながら、肘で深月の肩を軽く押しながら答える。
「一応、好きな子があんな目に遭ったし、心の傷が少し癒えてから返事が欲しいってことじゃない?
私が拓実くんに言われたみたいに、俺と付き合う、つまり恋人同士になるってこと、真剣に考えてほしい。
返事は、いつでもいい。
お互い忙しいんだし、すぐに返事くれなんて言わないから。
ゆっくり考えて。
私はこんな感じで言われたけれど。
それと違って、直接的なワードがないのも、フラッシュバックを起こさないようにっていう配慮かも」
私の言葉に、深月は何度か頷いた後、素っ頓狂な大声を上げた。
「え?
ちょっと、何でいつの間にか、拓実くんに告白されてるわけ?
何で言わないのよ!
全く、まだ返事してないんでしょ?」
「うん……」
なかなか、会えずにいる。
最近、拓実くんとはすれ違いが多い。
メールを送っても、2日後に返信が来たりする。
彼が通うのはかなり医学部への進学率が高い高校だ。
さぞかし忙しいのだろう。
彼が彼自身の進路に向かって頑張っている。
それを、まだ恋人関係でない私が邪魔する権利があるのか。
そう思って、踏み出せずにいる。
「なんかもやもやしてるのな。
だったら、バイトでもしてみれば?
余計なこと考えなくて済むし。
ウチの学園、理事長にバイト先の名前と住所申請すれば、それだけでバイト可になるから。
理名ちゃん、去年の文化祭の売子ちゃん、評判良かったんだぜ?
カフェでのアルバイトとか合いそう」
麗眞くんがそう言って、1枚の紙を渡してきた。
そこには、あるカフェの写真が載っていた。
求人情報には、系列店として、拓実くんが去年奢ってくれたイタリアンレストランの店名があった。
『プラスアルファのサービスを大事にしています』という文言が目に付いた。
「いいんじゃない?
医者志望なら経験値になりそう!」
「青に白のギンガムチェックエプロンって、制服も可愛いじゃない!
ここでバイトしてるって拓実くんに言えば来てくれそうじゃない?」
美冬と椎菜が、きゃっきゃとはしゃぐ。
求人情報の紙を見てみる。
未経験の学生も歓迎らしい。
それに、原材料にもかなりこだわっているらしい。
「応募、してみようかなぁ……」
電話を掛けると、急だが明日面接に来てほしいとのことだった。
お疲れ様会のはずが、途中から履歴書作成のお手伝い会に変わってしまった。
志望動機は、心理学が得意な深月が添削を請け負ってくれた。
履歴書が完成した頃に、秋山くんが来た。
「悪い。
遅くなった」
秋山くんも加わり、お疲れ様会はカラオケ大会に変わった。
「理名ちゃん、歌上手いんだから、夏休み明けに軽音楽サークル、強制加入な。
ギャップある子の方が人気出るし。
ボーカルだけじゃもったいないな。
ゲーセンにあるドラムゲームで難しいのを普通にこなせるし、リズム感もあるからな」
麗眞くんの言葉に、ついに観念した。
「入ってもいいけど、下手だからって1日で辞めさせないでよね」
勉強とバイトとサークルの掛け持ちで風邪をひかないようにしようと誓ったのだった。
今年は、学年優勝を勝ち取った。
深月は裁判の準備等も、再現ドラマの準備も、体育祭の練習と両立させていた。
傷ついた心には相当な負担だっただろうが、成しえたのは深月のメンタルの強さゆえだろう。
さすがは、あの母あってこの子ありということになる。
そして、体育祭が終わると、秋山くんは本格的に正瞭賢高等学園の生徒となった。
秋山くんは軽音楽サークルに入っていた。
ピアノを習っていたようである。
私までサークルに勧誘されたが、そのうち決断すると言って返事を保留にしている。
再現ドラマの準備も、着々と進んでいた。
完成したものは、夏休みに入る前の全校集会でお披露目されるという。
そして、その日に、無事に体育祭が終わったことを祝して、お疲れ様会を行った。
新しく編入した秋山くんの歓迎会も兼ねていたが、彼は途中から参加だという。
もちろん、場所は変わらず豪華な宝月家の邸宅だ。
本人不在なのをいいことに、ガールズトークに花が咲いていた。
「裁判に向けての事情聴取とか、妊振してないかの検査にまで付き合ってくれたんだけど。
1人だと不安だったから、それには感謝してるけど。
特に、妊娠してたらどうしよう、って思ってたから、いてくれて心強かった。
でもさ、だからって説教はなくない?
ミッチー、っていうのは道明のあだ名なんだけど。
ミッチーにめっちゃ説教されたの。
他人より自分のことをもっと大事にしろ、
自分を犠牲にしてつぶれるな。
わがままになれる若いうちからそんなんじゃ、自分がつまらない思いするんだぞって。
自己犠牲心が強いのは深月のいいところなんだけど、強すぎるのも問題だって。
いい塩梅覚えろって」
「言われたのはそれだけ?」
華恋の問いに、いつもの彼女らしくない蚊の鳴くような声で深月が答える。
「一応、告白はされた、かな……
『中学生の頃はからかうしか出来なかった。
今度はちゃんと、深月の側で正々堂々、彼氏っていう正当な立場で深月を守れるようにしたいから』
そんな台詞でね。
告白、って言っていいのか、分からないけど」
「それは遠回しな告白ですね!
道明くん、意外に奥手だったり?」
華恋が顔をニヤつかせながら、肘で深月の肩を軽く押しながら答える。
「一応、好きな子があんな目に遭ったし、心の傷が少し癒えてから返事が欲しいってことじゃない?
私が拓実くんに言われたみたいに、俺と付き合う、つまり恋人同士になるってこと、真剣に考えてほしい。
返事は、いつでもいい。
お互い忙しいんだし、すぐに返事くれなんて言わないから。
ゆっくり考えて。
私はこんな感じで言われたけれど。
それと違って、直接的なワードがないのも、フラッシュバックを起こさないようにっていう配慮かも」
私の言葉に、深月は何度か頷いた後、素っ頓狂な大声を上げた。
「え?
ちょっと、何でいつの間にか、拓実くんに告白されてるわけ?
何で言わないのよ!
全く、まだ返事してないんでしょ?」
「うん……」
なかなか、会えずにいる。
最近、拓実くんとはすれ違いが多い。
メールを送っても、2日後に返信が来たりする。
彼が通うのはかなり医学部への進学率が高い高校だ。
さぞかし忙しいのだろう。
彼が彼自身の進路に向かって頑張っている。
それを、まだ恋人関係でない私が邪魔する権利があるのか。
そう思って、踏み出せずにいる。
「なんかもやもやしてるのな。
だったら、バイトでもしてみれば?
余計なこと考えなくて済むし。
ウチの学園、理事長にバイト先の名前と住所申請すれば、それだけでバイト可になるから。
理名ちゃん、去年の文化祭の売子ちゃん、評判良かったんだぜ?
カフェでのアルバイトとか合いそう」
麗眞くんがそう言って、1枚の紙を渡してきた。
そこには、あるカフェの写真が載っていた。
求人情報には、系列店として、拓実くんが去年奢ってくれたイタリアンレストランの店名があった。
『プラスアルファのサービスを大事にしています』という文言が目に付いた。
「いいんじゃない?
医者志望なら経験値になりそう!」
「青に白のギンガムチェックエプロンって、制服も可愛いじゃない!
ここでバイトしてるって拓実くんに言えば来てくれそうじゃない?」
美冬と椎菜が、きゃっきゃとはしゃぐ。
求人情報の紙を見てみる。
未経験の学生も歓迎らしい。
それに、原材料にもかなりこだわっているらしい。
「応募、してみようかなぁ……」
電話を掛けると、急だが明日面接に来てほしいとのことだった。
お疲れ様会のはずが、途中から履歴書作成のお手伝い会に変わってしまった。
志望動機は、心理学が得意な深月が添削を請け負ってくれた。
履歴書が完成した頃に、秋山くんが来た。
「悪い。
遅くなった」
秋山くんも加わり、お疲れ様会はカラオケ大会に変わった。
「理名ちゃん、歌上手いんだから、夏休み明けに軽音楽サークル、強制加入な。
ギャップある子の方が人気出るし。
ボーカルだけじゃもったいないな。
ゲーセンにあるドラムゲームで難しいのを普通にこなせるし、リズム感もあるからな」
麗眞くんの言葉に、ついに観念した。
「入ってもいいけど、下手だからって1日で辞めさせないでよね」
勉強とバイトとサークルの掛け持ちで風邪をひかないようにしようと誓ったのだった。