森芝さんはかっこいい。
見目麗しく、大人で、優しくて、仕事に誇りを持って取り組んでいて、誰かを蔑むような事はしないし、笑顔が綺麗で、言葉遣いも丁寧で、まさに私の描いた理想の人そのものだ。
でも、私が好きなのは広瀬くんだったのだ。
理想よりも、森芝さんよりも、犬っころのような年下の男の子である広瀬くんが好きだと気付いた。
気付いてしまえばもう、このままではいられない。
いられないんだ。
「……それでも、違った。あなたじゃない、好きな人がいるんです」
森芝さんの表情が悲しげに揺らいだ。
そして、小さくため息をついて「そっか……」と呟いた。
そう言った森芝さんの横顔は、”失恋した男”そのもので、私は彼に本当に愛されていたのだと知った。
胸が痛い……。
私は、この痛みを知っている。
失恋する痛みを、過去に知っている。



