後日、私は広瀬くんと会った。
いつもの挨拶を、私は初めて拒んだ。
「和泉さん…?」
「広瀬くん、もうやめにしよう」
広瀬くんの表情は、困惑ばかりが浮かんでいた。
その中に、少しだけ疑問も混じっている。
その疑問に答えるかのように、私は森柴さんとの関係を伝えた。
「お付き合いしている人がいるの。だから……」
広瀬くんを見て、言葉が止まった。
まるで時間が止まったかのようにお互いの体が硬直して、私は瞬きさえ忘れる。
彼の双眼を真っ向から見つめて、背筋がツウっと冷たくなった。
こんな感覚、広瀬くんといて初めてだ。
彼が……広瀬くんが、私を見つめる。
その瞳には、悲しみ、苦しみ、痛み、怒り、嘆き、寂しさ、蔑み、色んな負の感情がぐちゃぐちゃに混ざって、涙が零れてしまいそうな深い黒が広がっている。
睨んでいるわけじゃない。
軽蔑されているわけじゃない。
泣いているわけじゃない。
けれど。
彼の瞳は心を映すように揺れていた。
ゆらゆらと、不安定な波が引いては押していく。



