「その本、どんなお話なの?」



彼女は、柔らかい声でそう言う。



「……記憶を無くした男の子が、色んな人に出会って色んな事を知って、無くした記憶を取り戻そうとする話だよ」



主人公が記憶を無くした物語は、きっとたくさんある。



どの物語も、読み始めていくうちに感情がその物語の中に入り込んで、最後には感動して泣いてしまう、なんてのがよくある。



この本の話も、僕じゃない誰かが読めば、感動して最後には泣いてしまうんじゃないだろうか。




僕じゃなければ。






「その男の子は、ちゃんと記憶を取り戻せるの?」



そう言った彼女の長い髪が、冷たい夜風にゆっくりと吹かれて揺れた。